「零さんって実際、経験人数どれくらいなんですか?」

放課後、軽音部の部室で棺桶の蓋を開けたまま横になっている零さんに、ふとそんなことを訊ねた。ユニットの歌も色気たっぷりなものが多いし、普段からそういう雰囲気はあるし、経験豊富多そうだ。

「あ〜……我輩長寿じゃから、数えておらぬよ。」
「…………え、なに、まさか童貞なんですか?」
「……」

ぎこちない返事にズバリ気になるところを突くと、零さんは黙り込んでしまった。なんだかおかしくなってきて、棺桶に近付き彼を覗き込みその肩を指先でつつく。

「え……あんなえっちな曲歌って踊ってるのに、女の子抱いたことないんですか?本気で言ってます?」
「我輩何にも言ってないんじゃけど……」
「否定しないんですかぁ?やーい童貞!」

調子に乗って揶揄うと、突然、腕を強く掴まれそのまま棺桶の中に押し倒された。思いのほかふかふかの棺桶に驚きながら、それ以上に、私を見下ろす零さんの顔が獲物を狩る獣のようで、つい怯んでしまう。

「ど、童貞じゃないんですか?」
「じゃから、我輩なんにも言っておらんじゃろ。おぬしこそどうなんじゃ?」

やっぱり色気が凄いなぁ、と思いながら、鋭く光る瞳や薄い唇、男らしい喉仏を見て生唾を呑んだ。

「……零さんが望むほうですよ、私はね。」
「ほう。……中々の小悪魔じゃな。重要なのは数ではない。ここでシてしまえば、お互い、少なくとも一回以上は経験がある……ということになるのう。」
「やですよぅ、棺桶の中なんて。」
「くくく、それもそうじゃの。」

零さんはそう笑って、私の額にキスをし体を起こした。余裕そうな顔に声……彼に比べて私はずいぶんと簡単に真っ赤になってしまった。

「ちと意地悪をしすぎたかの?これに懲りたら生意気なことは言わぬように。」
「……はぁい。」

誤魔化すようにそう返事をして体を起こすと、零さんがずいと身を乗り出し耳元で低く囁いた。

「あまり揶揄うと悪い吸血鬼に襲われるぞい。」
「わっ、あ、」

思わず耳を抑えて後ずさる。彼は相変わらず余裕なまま、にっこり微笑みを浮かべていた。あぁ、こんなの敵いっこない。