知らない一面
「……好きです。私、あなたのことが」
ひとけのない、昼下がりの公園のベンチに、私と彼は並んで腰掛けていた。彼から誘われて一緒に話題の映画を観、昼食を終えた後だった。私は意を決して彼に告白をしたのだ。
彼、日々樹渉と言えば愛と驚きの表現者なのだが、彼の言う愛は、きっと私の胸にあるものとはまったく別のものだ。だから付き合ってほしいとか特別になりたいとか、そういうことは言わなかった。
ただ、心のうちにあった想いが不意に溢れてしまっただけだ。彼を困らせてしまったとしても、自己満足だとわかっていても、私は彼に伝えたくなってしまった。
「ええと…………それは……」
「異性として、です。……いきなりごめんなさい」
「いえ、謝ることはありませんよ。少々驚いてしまっただけですから。ええと、それでですね……うーん、」
彼は珍しく言葉に詰まりながら、何故か懐から鳩を出したりバラを落としたりとよくわからない行動を取った。よくわからない行動は確かに普段からしているけれど、今の彼はどうも意図が読めないというか、正直慌てているだけのように見える。
「あの、本当にごめんなさい、困らせてしまって。自分勝手だとはわかってるんですけど、ただ伝えたくなっただけなんです。付き合ってほしいとかは、思いませんから」
「えっ、思わないんですか?」
「えっ?」
「あっいえ、その、なんと言いますか……アハハ」
もごもごと口ごもり、彼は困ったように笑った。確かに何も考えず本心だけで言えば、お付き合いだってしてみたい。が、やはり口にするのには抵抗があった。
「私は、伝えられただけで充分です」
「………………そう、ですか。わかりました! 貴女がそうおっしゃるのならありがたくお気持ちだけ受け取りましょう」
「はい、ありがとうございます」
何となく気まずい雰囲気が流れる。言わなきゃ良かったなあ、と早々に後悔していると、彼がいつもどおりに笑って話を切り出した。
「さて。そろそろ行きましょうか」
「あ、はい」
日々樹さんはそう言って立ち上がると、突然ベンチの足に思い切り脛をぶつけた。咄嗟に脛を摩るようにしゃがみこむと、今度は肘がベンチの肘置きに勢いよく当たる。かなり痛かったのだろう、彼は押し黙ってしゃがみこんだまま動かなくなった。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
「……ええ。平気ですよ! 気を取り直して、ほあっ!?」
「あっ!?」
元気に立ち上がり一歩踏み出したところ、今度は足を滑らせ豪快に転倒してしまった。……まさか、動揺しているのだろうか。いや、彼に限ってそんなことはないか。
「日々樹さん、本当に大丈夫ですか?」
ころんだきり立ち上がろうとしない彼に手を差し伸べると、ギュッとその手を握りしめられる。が、彼はやはり立ち上がろうとはしなかった。
「大丈夫じゃありません……本当に、お付き合いは望んでいないのですか? 私がお願いしても受け入れていただけませんか?」
「え……」
「愛しています、私も一人の女性として貴女を求めています。どうかこの手を離さないでください」
真剣な眼差しとほんのり赤らんだ頬と耳に、思わず言葉を失った。普段から超然としている彼が、今はまるで普通の男の子みたいに緊張しながら愛を語っている。それがなんだか妙にいじらしくて可愛くて、私も彼の手をぎゅっと強く握り返してしまった。
「はい。えっと……よろしくお願いします……」
「……ええ! 末永くよろしくお願いします!」
勢いよく立ち上がると、彼は衝動的に私を抱き締めた。これから先、こんなふうに彼の今まで見たことない一面を見ることが増えていくのだろうか。もしそうなら、これから先私はどれだけ幸せになってしまうんだろう。なんて、贅沢な悩みを思い浮かべながら彼の広い背中に手を回した。
ひとけのない、昼下がりの公園のベンチに、私と彼は並んで腰掛けていた。彼から誘われて一緒に話題の映画を観、昼食を終えた後だった。私は意を決して彼に告白をしたのだ。
彼、日々樹渉と言えば愛と驚きの表現者なのだが、彼の言う愛は、きっと私の胸にあるものとはまったく別のものだ。だから付き合ってほしいとか特別になりたいとか、そういうことは言わなかった。
ただ、心のうちにあった想いが不意に溢れてしまっただけだ。彼を困らせてしまったとしても、自己満足だとわかっていても、私は彼に伝えたくなってしまった。
「ええと…………それは……」
「異性として、です。……いきなりごめんなさい」
「いえ、謝ることはありませんよ。少々驚いてしまっただけですから。ええと、それでですね……うーん、」
彼は珍しく言葉に詰まりながら、何故か懐から鳩を出したりバラを落としたりとよくわからない行動を取った。よくわからない行動は確かに普段からしているけれど、今の彼はどうも意図が読めないというか、正直慌てているだけのように見える。
「あの、本当にごめんなさい、困らせてしまって。自分勝手だとはわかってるんですけど、ただ伝えたくなっただけなんです。付き合ってほしいとかは、思いませんから」
「えっ、思わないんですか?」
「えっ?」
「あっいえ、その、なんと言いますか……アハハ」
もごもごと口ごもり、彼は困ったように笑った。確かに何も考えず本心だけで言えば、お付き合いだってしてみたい。が、やはり口にするのには抵抗があった。
「私は、伝えられただけで充分です」
「………………そう、ですか。わかりました! 貴女がそうおっしゃるのならありがたくお気持ちだけ受け取りましょう」
「はい、ありがとうございます」
何となく気まずい雰囲気が流れる。言わなきゃ良かったなあ、と早々に後悔していると、彼がいつもどおりに笑って話を切り出した。
「さて。そろそろ行きましょうか」
「あ、はい」
日々樹さんはそう言って立ち上がると、突然ベンチの足に思い切り脛をぶつけた。咄嗟に脛を摩るようにしゃがみこむと、今度は肘がベンチの肘置きに勢いよく当たる。かなり痛かったのだろう、彼は押し黙ってしゃがみこんだまま動かなくなった。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
「……ええ。平気ですよ! 気を取り直して、ほあっ!?」
「あっ!?」
元気に立ち上がり一歩踏み出したところ、今度は足を滑らせ豪快に転倒してしまった。……まさか、動揺しているのだろうか。いや、彼に限ってそんなことはないか。
「日々樹さん、本当に大丈夫ですか?」
ころんだきり立ち上がろうとしない彼に手を差し伸べると、ギュッとその手を握りしめられる。が、彼はやはり立ち上がろうとはしなかった。
「大丈夫じゃありません……本当に、お付き合いは望んでいないのですか? 私がお願いしても受け入れていただけませんか?」
「え……」
「愛しています、私も一人の女性として貴女を求めています。どうかこの手を離さないでください」
真剣な眼差しとほんのり赤らんだ頬と耳に、思わず言葉を失った。普段から超然としている彼が、今はまるで普通の男の子みたいに緊張しながら愛を語っている。それがなんだか妙にいじらしくて可愛くて、私も彼の手をぎゅっと強く握り返してしまった。
「はい。えっと……よろしくお願いします……」
「……ええ! 末永くよろしくお願いします!」
勢いよく立ち上がると、彼は衝動的に私を抱き締めた。これから先、こんなふうに彼の今まで見たことない一面を見ることが増えていくのだろうか。もしそうなら、これから先私はどれだけ幸せになってしまうんだろう。なんて、贅沢な悩みを思い浮かべながら彼の広い背中に手を回した。