「寝ない子だ〜れだ」
「わっ、凛月?」
「残念。ちゃんと寝ない悪い子は俺じゃないよ〜」

 真夜中、どうにも眠れないで本を読んでいたところ、突然凛月がベッドにもぐりこんできた。昼間は眠いのを必死に我慢していたくせに、こんな時間でも彼は元気そうだ。本をベッドサイドに置いて寝返りをうつと、凛月は遠慮なく脚を絡めてきた。

「暗いところで本なんか読んでたら目が悪くなるよ。ほら、ちゃんと全部電気消して。明日も朝から俺のお世話するんでしょ? 早く寝ないと」

 凛月は甘えるふりをして私を抱き寄せ、電気をパチリと消してしまった。とくん、とくんと穏やかな心音が伝わってくる。それにくわえ、彼の体温はじんわりと私の肌になじんでやさしく眠気を誘ってくれた。ぽん、ぽん、と赤ん坊をあやすように背を撫でられる。

「凛月……」
「んー、なぁに?」
「キスしていい?」
「え〜……逆に聞くけど、俺が断ると思う?」

暗闇のなか、紅い瞳がまっすぐに私を見つめて微笑んだ。手探りで彼の頬に触れて、不格好なキスをする。上手く唇に当たらなかったのか、凛月は私の肩をベッドに押さえつけてキスをし直した。

「ふふ、下手くそ」
「見えないんだもん……」

 凛月は私のうえに覆い被さると、何度も私にキスをしてきた。額や瞼や唇、それから首すじへ下りていき、鎖骨のあたりまで満遍なくキスを降らす。

「……寝るどころじゃなくなりそう」

私のデコルテの辺りで、凛月はわざとらしく上目遣いで私を見つめた。咄嗟に明日の予定を思い出す、が、特に用事はない。要するに彼のおねだりを拒む理由はどこにもない。

「私、まだ眠くないよ。……明日は遅めに起きよっか?」
「うん。じゃあ夜更かし決定……♪」

 にやりと嬉しそうに笑って、凛月は私の唇に軽いキスをした。私にはちっとも見えないのに、凛月は全部見えてるみたいにすいすい私の寝間着を脱がせていく。

優しく寝かしつけてくれる騎士様かと思ったんだけれど、どうやら正反対の悪魔だったらしい。どちらにせよ、凛月なら愛しいことに変わりないけれど。