オレンジタイム
身体中に心地好い疲労を感じる。空はまだ明るいけれど、ビルの向こうには真っ赤なオレンジが沈みかけていた。私はバス停に腰掛け、隣に座るジュンくんとの微妙な距離感に何となくどぎまぎしていた。
肩が触れることもなく、指先が重なることもなく、ただ無駄に余裕のあるベンチに並んで座っている。
「……バス、何分でしたっけ?」
「あ〜っと……あと三十分……くらいかな。ごめんね、一緒に待ってもらっちゃって」
「いやいや、本当はちゃんと家まで送るべきなんでしょうけどねぇ? ほんとに大丈夫なんすか?」
「大丈夫大丈夫、バス停、家のすぐ側だから」
駅から電車で帰る予定のジュンくんは、家まで送る代わりにとこうして一緒にバスを待ってくれている。あと三十分もすればバスも来て、あの焼けるような夕日も沈みきって夜になってしまうんだろう。せっかく二人で出かけるところにまでこぎつけたのに、結局肝心なところで一歩踏み込めない。
「今日、すげぇ楽しかったです」
「ん、あ、うん。私も……日和さん、お土産喜んでくれるといいね」
「そっすね。まぁ、何持っていっても何かしら文句は言われそうですけど……あんたが一緒に選んでくれたんだし、今回ばっかりは素直に喜んでくれると思いますけど」
「あはは、どうだろうね」
ほとんど中身のない、綿飴みたいな会話だけを交わす。何となく足がそわそわして落ち着かない。
ちゃんと彼に気持ちを言おうか、言うまいか、胸の中で右往左往するのに合わせて心臓もドキドキと高鳴ってしまう。顔なんて合わせられずに、私はお気に入りのサンダルだけをもじもじと見つめていた。
「……疲れちゃいました?」
「えっ?」
「あぁいや、なんか元気ねぇっぽかったんで……あちこち連れ回してすみません」
「ううんっ、全然そんなことない! 元気だよ、まだ元気……色んなとこにジュンくんと一緒に行けてすっごく楽しかった!」
思わず顔を上げてジュンくんのほうを向いてしまった。ジュンくんはちょっとびっくりしたような顔で私を見つめ返す。自分のぎこちない態度のせいで彼に謝らせてしまったのが嫌で、つい目を合わせてしまった。
「……ぷはっ、そんな元気なんすか?」
「う、うん……」
可笑しそうにふきだしたジュンくんは、笑って私の手に自分の手を重ねた。ドキッと心臓が飛び跳ねてどこかへ行ってしまったような気がした。が、心臓は依然として私の胸のうちで激しくどくどくと脈打っている。
「そんなに元気なら、もうちょっとだけ付き合ってくれませんかねぇ? オレはあと三十分だけで帰しちまいたくねぇんですけど」
「……うん、私もほんとはまだ帰りたくなかったの」
「じゃあちょうどよかった。ほら、行きましょ」
ジュンくんは平気そうに笑いながら、私の手を自然に握って立ち上がる。でも繋いだ手は私より熱くて、ほんの少しだけ緊張で震えていた。
このままずっと夜が来なければいいのに。そうしたらずっと二人でデートを延長していられるのに。そんな欲張りなことを考えながら、ゆっくりゆっくり沈んでいく夕日に背を向けて、ジュンくんの手をぎゅうっと強く握り返した。
肩が触れることもなく、指先が重なることもなく、ただ無駄に余裕のあるベンチに並んで座っている。
「……バス、何分でしたっけ?」
「あ〜っと……あと三十分……くらいかな。ごめんね、一緒に待ってもらっちゃって」
「いやいや、本当はちゃんと家まで送るべきなんでしょうけどねぇ? ほんとに大丈夫なんすか?」
「大丈夫大丈夫、バス停、家のすぐ側だから」
駅から電車で帰る予定のジュンくんは、家まで送る代わりにとこうして一緒にバスを待ってくれている。あと三十分もすればバスも来て、あの焼けるような夕日も沈みきって夜になってしまうんだろう。せっかく二人で出かけるところにまでこぎつけたのに、結局肝心なところで一歩踏み込めない。
「今日、すげぇ楽しかったです」
「ん、あ、うん。私も……日和さん、お土産喜んでくれるといいね」
「そっすね。まぁ、何持っていっても何かしら文句は言われそうですけど……あんたが一緒に選んでくれたんだし、今回ばっかりは素直に喜んでくれると思いますけど」
「あはは、どうだろうね」
ほとんど中身のない、綿飴みたいな会話だけを交わす。何となく足がそわそわして落ち着かない。
ちゃんと彼に気持ちを言おうか、言うまいか、胸の中で右往左往するのに合わせて心臓もドキドキと高鳴ってしまう。顔なんて合わせられずに、私はお気に入りのサンダルだけをもじもじと見つめていた。
「……疲れちゃいました?」
「えっ?」
「あぁいや、なんか元気ねぇっぽかったんで……あちこち連れ回してすみません」
「ううんっ、全然そんなことない! 元気だよ、まだ元気……色んなとこにジュンくんと一緒に行けてすっごく楽しかった!」
思わず顔を上げてジュンくんのほうを向いてしまった。ジュンくんはちょっとびっくりしたような顔で私を見つめ返す。自分のぎこちない態度のせいで彼に謝らせてしまったのが嫌で、つい目を合わせてしまった。
「……ぷはっ、そんな元気なんすか?」
「う、うん……」
可笑しそうにふきだしたジュンくんは、笑って私の手に自分の手を重ねた。ドキッと心臓が飛び跳ねてどこかへ行ってしまったような気がした。が、心臓は依然として私の胸のうちで激しくどくどくと脈打っている。
「そんなに元気なら、もうちょっとだけ付き合ってくれませんかねぇ? オレはあと三十分だけで帰しちまいたくねぇんですけど」
「……うん、私もほんとはまだ帰りたくなかったの」
「じゃあちょうどよかった。ほら、行きましょ」
ジュンくんは平気そうに笑いながら、私の手を自然に握って立ち上がる。でも繋いだ手は私より熱くて、ほんの少しだけ緊張で震えていた。
このままずっと夜が来なければいいのに。そうしたらずっと二人でデートを延長していられるのに。そんな欲張りなことを考えながら、ゆっくりゆっくり沈んでいく夕日に背を向けて、ジュンくんの手をぎゅうっと強く握り返した。