私の両親はいわゆる授かり婚というやつで、最初こそ上手くやっていたらしいが結局、私の独り立ちと同時期に離婚してしまった。母方の祖母も離婚しているし、父方の祖母も同じく離婚している。

端的に言えば、私の身近には永遠の愛が存在しない。

「……零、」

 二人で選んだダブルベッドの奥側に、彼は長い脚をだらりと伸ばして片手で本を読んでいた。私が呼びかければ、その赤い瞳を私へ向けて本を開いたまま腹の上に置く。

「ん? どうしたんじゃ」
「……ううん、なんでもない」
「呼んでみただけ♡ というやつかや? 可愛いのう、よしよし」

零は冗談めかして私の頭を乱雑に撫でた。隣に寝そべってみると、何となく、胸がきゅうっと熱くなる。愛おしいのか切ないのか、不安なのか……正体のわからない感情で心がいっぱいになった。

「どうしたんじゃ、そんなに不安げな顔をして」
「うん……あのね、ずっと考えてたの。零と結婚して今は幸せだけど、いつか離れたくなる日が来るのかなって」

「……というと?」
「この先、何十年もずっと一緒にいたら、いつかは飽きちゃったり嫌になったり、もしかするとすごく大きな喧嘩とかするかもしれないでしょ? 幸せなのって今だけなのかなって、いつか終わりがくるのかなって思ったら……なんか、悲しくて、やるせなくて」

彼の胸もとに顔を埋めて、細い腰に腕を回した。彼は本を枕元に置き、優しくそっと私を抱き返す。今あるぬくもりが愛しくてたまらないからこそ、失う日が怖くて仕方ない。じわりと目頭が熱くなって、彼の服を濡らしてしまう。

「うむ、そうじゃな。先のことなど誰にもわからぬからのう。この幸福もいつかは終わってしまうのかもしれぬ。……永遠は約束できぬよ、できない約束はせん。けれど、せめて幸福な『今』だけは積み重ねよう。見えない暗い未来のことを憂うよりも、今この瞬間、お主が我輩の腕の中にいることを喜びたい。なまえ、お主にもどうか、そう思ってほしい」

 零は、小さい子どもに言い聞かせるような、或いは恋人が甘く愛を囁くような穏やかで優しい声色でそう語った。私は彼を抱き締める腕にぎゅっと力を込めて、噛み締めるように何度も頷いた。

「うん、……うん、っだいすき……」
「うむ……我輩も愛しておるよ、なまえ」

何度もあやすように頭を撫でられ、段々まぶたが重くなってくる。まだ濡れたままの目で彼を見上げれば、彼は心底幸せそうに微笑んでくれた。

 明日の朝も、目覚めてしまえば『今』になる。その次の日も、そのまた次の日も。そうやって幸せな今だけ積み重ねていって、いつかずっと先の『今』で、今日の不安を笑い飛ばせますように。

……いや、きっと彼が傍にいてくれるなら、そんなこと願うまでもないのだろう。