プロポーズ
結婚……それは人生における一大イベントだ。自分がすることになるとは微塵も思っていなかったが、するとなれば完璧なプランを立てて遂行したい。彼女の一生の思い出になるようなプロポーズから結婚を始めてみたい。あわよくば普段あまり泣かない彼女をぐちゃぐちゃに泣かせてやりたい。
そんな野望を胸に、完璧なプロポーズへの準備が始まった。女性が喜ぶシチュエーションを調べあげ、睡眠薬を盛って彼女の指輪のサイズを測り、サプライズ向きの高級レストランも調べ尽くした。
彼女のお気に入りの音楽に、彼女の好きな薔薇のモチーフが入った銀のリングを用意し、サプライズを援助してくれる高級レストランとの打ち合わせも抜かりなく行なった。当日は仕事の連絡が入らないようとことん根回しもした。
残すところはあと決行するのみ。我ながら完璧すぎて逆に怖くなるくらいだ。彼女の泣き顔を見るのが楽しみで仕方ない。
そして決行前日、いつも通り彼女と同じベッドに入ると、不意に彼女がこちらへ寝返りをうった。
「ね、茨」
「どうしました?」
彼女は俺の左手を取って、もにもにと手のひらを揉んできた。マッサージだとかなんとか言って頻繁に手を揉んでくれるが、実はあんまり効果がない。まあ、彼女の柔い手に触れるだけで何となく気持ちいいような気はするので、好きなようにさせている。
しばらく手を揉んだあと、彼女は不意に俺を見つめてふにゃりと笑った。
「そろそろ、結婚しよっか」
「……は?」
「んや、お仕事もあるしすぐにじゃなくていいよ。ただ、ね、なんか結婚したくなっちゃった」
何度でも主張したいが、俺はこれまで約三ヶ月を費やして完璧なプロポーズを準備してきた。彼女を感動させて泣き顔を拝んでやるためだ。それなのにこの女ときたら。
「……わ、泣かないで。よしよし、いい子いい子」
「ガキ扱いしないでください……」
どうして涙が出てくるのかわからなかった。悔しさとか恨めしさではないから余計にわからなかった。彼女が俺の頭を優しい手つきで撫でるのが、ムカついてムカついて仕方なくて……だから、多分きっとこれはそういう涙なんだ。そうでなければ腑に落ちない。
「大好きだよ、茨。ず〜っと一緒にいようね」
「……はい」
よろしくお願いします、は癪だから言わなかった。どうせ彼女のことだから指輪なんか買ってないだろうし、明日は予定通りレストランに行って、指輪を渡して、今度こそ泣かせてやろう。彼女の細い身体を抱き締めて、心の中では「今に見てろ」と強がってみせた。
そんな野望を胸に、完璧なプロポーズへの準備が始まった。女性が喜ぶシチュエーションを調べあげ、睡眠薬を盛って彼女の指輪のサイズを測り、サプライズ向きの高級レストランも調べ尽くした。
彼女のお気に入りの音楽に、彼女の好きな薔薇のモチーフが入った銀のリングを用意し、サプライズを援助してくれる高級レストランとの打ち合わせも抜かりなく行なった。当日は仕事の連絡が入らないようとことん根回しもした。
残すところはあと決行するのみ。我ながら完璧すぎて逆に怖くなるくらいだ。彼女の泣き顔を見るのが楽しみで仕方ない。
そして決行前日、いつも通り彼女と同じベッドに入ると、不意に彼女がこちらへ寝返りをうった。
「ね、茨」
「どうしました?」
彼女は俺の左手を取って、もにもにと手のひらを揉んできた。マッサージだとかなんとか言って頻繁に手を揉んでくれるが、実はあんまり効果がない。まあ、彼女の柔い手に触れるだけで何となく気持ちいいような気はするので、好きなようにさせている。
しばらく手を揉んだあと、彼女は不意に俺を見つめてふにゃりと笑った。
「そろそろ、結婚しよっか」
「……は?」
「んや、お仕事もあるしすぐにじゃなくていいよ。ただ、ね、なんか結婚したくなっちゃった」
何度でも主張したいが、俺はこれまで約三ヶ月を費やして完璧なプロポーズを準備してきた。彼女を感動させて泣き顔を拝んでやるためだ。それなのにこの女ときたら。
「……わ、泣かないで。よしよし、いい子いい子」
「ガキ扱いしないでください……」
どうして涙が出てくるのかわからなかった。悔しさとか恨めしさではないから余計にわからなかった。彼女が俺の頭を優しい手つきで撫でるのが、ムカついてムカついて仕方なくて……だから、多分きっとこれはそういう涙なんだ。そうでなければ腑に落ちない。
「大好きだよ、茨。ず〜っと一緒にいようね」
「……はい」
よろしくお願いします、は癪だから言わなかった。どうせ彼女のことだから指輪なんか買ってないだろうし、明日は予定通りレストランに行って、指輪を渡して、今度こそ泣かせてやろう。彼女の細い身体を抱き締めて、心の中では「今に見てろ」と強がってみせた。