「……あっ、あのやっぱりちょっと待って……!」

 あと、ほんの三センチほどだったのに。唇が触れるより前に、焦った彼女に肩を押され距離を取られた。

「う〜ん、中々慣れんのう」
「ご、ごめんなさい」
「おててを繋ぐのと一緒じゃよ〜、ほれほれ、重なるところが変わるだけじゃ」

軽い口調でそう言って、彼女の手を取る。本当はもう無理やり押さえつけてでもキスしてやりたいが、せっかくファーストキスらしいのにあまり強引なことはしたくない。

「でも……だって、手を繋ぐのもまだ緊張するのに……」

 繋いだ手はカタカタと微かに震えている。耳までトマトのように真っ赤になって、彼女はおずおずと目を逸らす。

「……なら、今日もやめておこうかの」

パ、と手を離すと、彼女は驚いたようにこちらを見上げた。潤んだ瞳があんまり綺麗だから、これ以上は無闇に立ち入れない。無理強いだけはしたくなかった。

「ま、待って」

 彼女は震える声のまま、俺の手を掴んだ。顔を上げて、真っ直ぐに俺の目を見る。

「大丈夫、緊張するだけだから、お願い……もう、待ってって言ってもやめないで」

健気にもそんなことを言って、彼女はぎゅっと目を閉じた。キスを待つこの顔を、ずっと見つめていたい気持ちもある。が、彼女の望むまま、頬に手を当ててそのまま唇を重ねさせた。一度唇を離すと、彼女が恐る恐る目を開ける。

「……あ、の、零……っんむ」

 何か言いかけたのも聞かず、丁度よく開いた口に噛み付いた。後頭部に手を当てて逃がさないようにしながら、舌を絡ませる。十分これまでの「待て」のツケをもらったところで、唇を離した。

「うむ、ご馳走さま♪」
「……ひ、ひどい……初めてだったのに……」
「いやいや、初めてはちゃんと優しくしたじゃろ。連続で二回目をしただけじゃ」
「屁理屈だ〜……」

腰が抜けたのか、彼女は俺に抱き着いて息を吐いた。その小さな背中に手を回し、ぎゅうっと力いっぱい抱き締める。

次のステップに辿り着くまで、一体どのくらいかかるのだろうか。……今は、そんなもどかしさすらも愛おしい。