初恋
最近、気になる子がいる。ついこの前コズプロにインターンでやってきた女の子。性格は大人しくて、特段仕事ができるわけではないし、何か目立ったものがあるわけでもない。
それなのに私は何故か、毎日事務所に行くたび彼女の姿を探してしまう。その理由が知りたくて、最近は空き時間もずっと事務所で彼女を見つめていた。
今日は、遅めの昼食をとるため行った食堂で、たまたま彼女の姿を見つけた。近寄ったら怖がられるかな、茨に怒られちゃうかな、そんなことも少しは考えたけれど、気がつけば体が勝手に動いていた。
「こんにちは。相席してもいい?」
「わっ、な……乱さん、お疲れさまです。どうぞ、私もう行きますから」
「待って。急いで行かないといけないの?」
「いえ……」
「なら話し相手になってほしいな。一人でする食事は、少し味気ないから」
彼女の向かいにトレーを置いて椅子を引く。微笑みを向けると、彼女は少し困ったように笑った。彼女の笑顔を正面から見るのはこれが初めてだった。どうしてだかやっぱりわからないけれど、胸の当たりがぽかぽかとあたたまるのを感じる。
「七種さんに怒られちゃいませんか?」
「大丈夫だよ、食堂での食事くらいなら。……それと、良ければ下の名前で読んでほしいな」
「それは……ますます怒られませんか?」
「ふふ、慎重なんだね。大丈夫、誰も怒ったりしないよ」
彼女はどことなく緊張するようにそわそわしながらも、自分のトレーに乗っているドーナツを手に取った。細い指がドーナツを支え、小さな口がぱくりとドーナツをかじる。そのひとくちがとっても小さくて、なんだかハムスターやリスを見ているような気持ちになった。
「……美味しい?」
「ん、はい」
幸せそうに笑って頷く彼女を見ていると、自然と顔が綻んでしまう。小動物を彷彿とさせるから、こんなにも愛おしく思えるのかな。けれど、可愛い仔犬や仔猫を見たときとはほんの少し違う気持ちのようにも思える。私は自分の昼食にはちっとも手をつけず、じいっと彼女を食い入るように見つめていた。
「あの……私、何かついてます?」
「え? ううん……あ、ちょっと待って」
ドーナツを半分ほど食べ終えたころ、彼女はドーナツをお皿に置いて困惑したように私を見た。そのくちびるの横にドーナツのくずがついていたから、手を伸ばして指の背でくずを取った。
触れると、彼女は思っていたよりふわふわとやわらかくて、あたたかくて、胸がぎゅっと一瞬締め付けられたように苦しくなった。
「……はい、取れたよ」
「あ、ありがとうございます……」
胸の苦しさを理解できないままで彼女を見て、驚いた。その柔らかそうなほっぺと耳が真っ赤になっていたから。
「あはは、凪砂さん、かっこいいから緊張しちゃいます」
「私、かっこいい?」
「もちろんですよ」
「……そう。君に言われると嬉しいな、ありがとう」
彼女の真っ赤な顔を見て、私はようやく自分の心を理解した。彼女へ抱いているのは小動物や子どもへの愛おしさとはまったく違う。
その小さなくちびるに触れたり、他の人の目の届かない場所でひとりじめしてしまいたい……きっとこういう気持ちを、ひとは恋と呼ぶんだろう。
「私も、明日はドーナツを食べようかな」
「? はい、ここのドーナツすっごく美味しいのでおすすめです!」
無邪気に笑う彼女に私も笑顔を返す。
恋をしたあとはどうしたら良いんだろう。右も左もわからないのに、なぜだか楽しくて浮き足立ってしまう。恋ってなんて素敵なんだろう。……日和くんにも相談してみようかな。
それなのに私は何故か、毎日事務所に行くたび彼女の姿を探してしまう。その理由が知りたくて、最近は空き時間もずっと事務所で彼女を見つめていた。
今日は、遅めの昼食をとるため行った食堂で、たまたま彼女の姿を見つけた。近寄ったら怖がられるかな、茨に怒られちゃうかな、そんなことも少しは考えたけれど、気がつけば体が勝手に動いていた。
「こんにちは。相席してもいい?」
「わっ、な……乱さん、お疲れさまです。どうぞ、私もう行きますから」
「待って。急いで行かないといけないの?」
「いえ……」
「なら話し相手になってほしいな。一人でする食事は、少し味気ないから」
彼女の向かいにトレーを置いて椅子を引く。微笑みを向けると、彼女は少し困ったように笑った。彼女の笑顔を正面から見るのはこれが初めてだった。どうしてだかやっぱりわからないけれど、胸の当たりがぽかぽかとあたたまるのを感じる。
「七種さんに怒られちゃいませんか?」
「大丈夫だよ、食堂での食事くらいなら。……それと、良ければ下の名前で読んでほしいな」
「それは……ますます怒られませんか?」
「ふふ、慎重なんだね。大丈夫、誰も怒ったりしないよ」
彼女はどことなく緊張するようにそわそわしながらも、自分のトレーに乗っているドーナツを手に取った。細い指がドーナツを支え、小さな口がぱくりとドーナツをかじる。そのひとくちがとっても小さくて、なんだかハムスターやリスを見ているような気持ちになった。
「……美味しい?」
「ん、はい」
幸せそうに笑って頷く彼女を見ていると、自然と顔が綻んでしまう。小動物を彷彿とさせるから、こんなにも愛おしく思えるのかな。けれど、可愛い仔犬や仔猫を見たときとはほんの少し違う気持ちのようにも思える。私は自分の昼食にはちっとも手をつけず、じいっと彼女を食い入るように見つめていた。
「あの……私、何かついてます?」
「え? ううん……あ、ちょっと待って」
ドーナツを半分ほど食べ終えたころ、彼女はドーナツをお皿に置いて困惑したように私を見た。そのくちびるの横にドーナツのくずがついていたから、手を伸ばして指の背でくずを取った。
触れると、彼女は思っていたよりふわふわとやわらかくて、あたたかくて、胸がぎゅっと一瞬締め付けられたように苦しくなった。
「……はい、取れたよ」
「あ、ありがとうございます……」
胸の苦しさを理解できないままで彼女を見て、驚いた。その柔らかそうなほっぺと耳が真っ赤になっていたから。
「あはは、凪砂さん、かっこいいから緊張しちゃいます」
「私、かっこいい?」
「もちろんですよ」
「……そう。君に言われると嬉しいな、ありがとう」
彼女の真っ赤な顔を見て、私はようやく自分の心を理解した。彼女へ抱いているのは小動物や子どもへの愛おしさとはまったく違う。
その小さなくちびるに触れたり、他の人の目の届かない場所でひとりじめしてしまいたい……きっとこういう気持ちを、ひとは恋と呼ぶんだろう。
「私も、明日はドーナツを食べようかな」
「? はい、ここのドーナツすっごく美味しいのでおすすめです!」
無邪気に笑う彼女に私も笑顔を返す。
恋をしたあとはどうしたら良いんだろう。右も左もわからないのに、なぜだか楽しくて浮き足立ってしまう。恋ってなんて素敵なんだろう。……日和くんにも相談してみようかな。