もう俺のもの
ウサギとカメでいうところの、俺はまさにウサギだった。幼い頃から想いを寄せていた幼馴染に対して、誰にも盗られるはずがないとか俺以外を選ぶはずがないとか余裕をぶっこいていた。
「なんかこないだ男の人と帰ってるの見たけど」
「……は?」
ある日、なんの前触れもなく凛月にそう言われて頭が真っ白になった。
「まぁもうあの人も高校生だもん。恋人くらい作るでしょ……普通に共学校行ったらしいし」
「……」
夢ノ咲に入って、アイドルを始めて、ファンもそこそこにできて……すっかり油断していた。俺が高校でのうのうと青春を謳歌している間、無論、なまえも同様に年相応に青春を謳歌しているはずなのだ。
ふらふらと自室に戻って、ベッドに倒れ込む。自室の窓からはちょうどなまえの自室が見える。幼い頃はよく窓越しに話したりもしていたものだ。魂が出て行って消えちまいそうなくらい長い長い溜め息をついて、ふと、カーテンから外を覗いた。
「あっ、零。やっほ〜」
「……っ、よう」
すると窓越しに自室から顔を出すなまえと、ばったり目が合った。恐らく風呂上がりなんだろう、濡れた髪のまま窓を開けて涼んでいる。なまえは俺に気がつくと、幼い頃から何にも変わらない無邪気な笑顔を浮かべた。
「何してるの?」
「こっちのセリフだっつ〜の」
「私は暑くて……でも夜風は気持ちいから涼んでるの」
「ふーん」
幼い頃から変わらないのなんて笑顔くらいだ。薄着だと目のやり場に困るくらいには女らしい体つきになっちまったし、ちょっと火照った顔はどことなく色っぽい。なんでもないような顔でそっぽを向くと、なまえはひらひらと手を振ってきた。
「ねぇ、零はどうかしたの? ずっと変な顔してるけど」
「……別に」
あれ、俺ってこんなに口下手だったか。いやそんなはずはない、むしろ人一倍弁の立つほうだ。それなのになんでこんなにもぎこちなく、よそよそしくなってしまうのか。理由なんて明白ではあった。
「あのさ〜……凛月に聞いたんだけど、彼氏できたのかよ?」
「うん? ううん? できてないよ、なんで?」
「えっできてね〜のか? なんか男と二人で帰ってたって」
「二人で……? あぁ、あれ部活の先輩だよ、夜遅いからって送ってくれたんだよね」
へらへら笑いながら、なまえはなんでもないようにそう言った。ホッと胸を撫で下ろすのと同時に、付き合ってないにせよ夜に家まで送るなんて下心丸出しじゃね〜か、と内心ムッとしてしまう。
「零は彼女できたの?」
「ンなわけね〜だろ」
「かっこいいのにねぇ。あ、でもアイドルって恋愛禁止なんだっけ?」
「いや、なんか最近はそうでもね〜らしい」
取り留めもない会話をしつつ、頭の中を整理する。きっと、俺の知らないところでなまえは色んな人間と関わって、多分このまま放っておいたら人並みに恋をしたり恋人をつくったりするんだろう。根拠もなく余裕ぶっこいて後悔なんて絶対にしたくない。となれば、今俺がすべきことはひとつだ。
「なぁ」
「うん?」
「……ずっと前から言おうとは思ってたンだけど」
「うん」
「…………付き合ってほしい、俺と」
まっすぐ目を見てそう言うと、なまえは驚いたように目を丸くしてから、はにかむように笑った。
「え〜……ずるい、アイドルやるって言うから諦めようとしてたのに」
「それは、」
「……うん。えっと……だから、よろしくお願いします……でいいのかな」
「そっち行っていいか?」
衝動のまま、窓枠に足を掛けて身を乗り出す。なまえは慌てて止めようとしていたが、無視してなまえの部屋の窓に飛び移った。そのまま部屋に上がり込んでなまえをぎゅうっと抱きしめる。
「は〜……好き」
「うん、ちょっとまって、ちょっと離して」
「なァにビビってんだ、まだ何もしね〜よ」
「まだってなに……」
ひっつけた体からうさぎみたいに速い鼓動が伝わってくる。もうどこの馬の骨ともわからね〜奴には指一本触れさせねぇ。今まで長いこと放っておいたぶん、これからは思う存分独占させてもらおう。
「なんかこないだ男の人と帰ってるの見たけど」
「……は?」
ある日、なんの前触れもなく凛月にそう言われて頭が真っ白になった。
「まぁもうあの人も高校生だもん。恋人くらい作るでしょ……普通に共学校行ったらしいし」
「……」
夢ノ咲に入って、アイドルを始めて、ファンもそこそこにできて……すっかり油断していた。俺が高校でのうのうと青春を謳歌している間、無論、なまえも同様に年相応に青春を謳歌しているはずなのだ。
ふらふらと自室に戻って、ベッドに倒れ込む。自室の窓からはちょうどなまえの自室が見える。幼い頃はよく窓越しに話したりもしていたものだ。魂が出て行って消えちまいそうなくらい長い長い溜め息をついて、ふと、カーテンから外を覗いた。
「あっ、零。やっほ〜」
「……っ、よう」
すると窓越しに自室から顔を出すなまえと、ばったり目が合った。恐らく風呂上がりなんだろう、濡れた髪のまま窓を開けて涼んでいる。なまえは俺に気がつくと、幼い頃から何にも変わらない無邪気な笑顔を浮かべた。
「何してるの?」
「こっちのセリフだっつ〜の」
「私は暑くて……でも夜風は気持ちいから涼んでるの」
「ふーん」
幼い頃から変わらないのなんて笑顔くらいだ。薄着だと目のやり場に困るくらいには女らしい体つきになっちまったし、ちょっと火照った顔はどことなく色っぽい。なんでもないような顔でそっぽを向くと、なまえはひらひらと手を振ってきた。
「ねぇ、零はどうかしたの? ずっと変な顔してるけど」
「……別に」
あれ、俺ってこんなに口下手だったか。いやそんなはずはない、むしろ人一倍弁の立つほうだ。それなのになんでこんなにもぎこちなく、よそよそしくなってしまうのか。理由なんて明白ではあった。
「あのさ〜……凛月に聞いたんだけど、彼氏できたのかよ?」
「うん? ううん? できてないよ、なんで?」
「えっできてね〜のか? なんか男と二人で帰ってたって」
「二人で……? あぁ、あれ部活の先輩だよ、夜遅いからって送ってくれたんだよね」
へらへら笑いながら、なまえはなんでもないようにそう言った。ホッと胸を撫で下ろすのと同時に、付き合ってないにせよ夜に家まで送るなんて下心丸出しじゃね〜か、と内心ムッとしてしまう。
「零は彼女できたの?」
「ンなわけね〜だろ」
「かっこいいのにねぇ。あ、でもアイドルって恋愛禁止なんだっけ?」
「いや、なんか最近はそうでもね〜らしい」
取り留めもない会話をしつつ、頭の中を整理する。きっと、俺の知らないところでなまえは色んな人間と関わって、多分このまま放っておいたら人並みに恋をしたり恋人をつくったりするんだろう。根拠もなく余裕ぶっこいて後悔なんて絶対にしたくない。となれば、今俺がすべきことはひとつだ。
「なぁ」
「うん?」
「……ずっと前から言おうとは思ってたンだけど」
「うん」
「…………付き合ってほしい、俺と」
まっすぐ目を見てそう言うと、なまえは驚いたように目を丸くしてから、はにかむように笑った。
「え〜……ずるい、アイドルやるって言うから諦めようとしてたのに」
「それは、」
「……うん。えっと……だから、よろしくお願いします……でいいのかな」
「そっち行っていいか?」
衝動のまま、窓枠に足を掛けて身を乗り出す。なまえは慌てて止めようとしていたが、無視してなまえの部屋の窓に飛び移った。そのまま部屋に上がり込んでなまえをぎゅうっと抱きしめる。
「は〜……好き」
「うん、ちょっとまって、ちょっと離して」
「なァにビビってんだ、まだ何もしね〜よ」
「まだってなに……」
ひっつけた体からうさぎみたいに速い鼓動が伝わってくる。もうどこの馬の骨ともわからね〜奴には指一本触れさせねぇ。今まで長いこと放っておいたぶん、これからは思う存分独占させてもらおう。