「聞いてくれ! この胸の高鳴りを……!」

熱い手のひらで彼女の手を掴み、俺は大胆にもその手を自分の胸にあてがわせた。ドクドクと激しく脈打つ鼓動を確かに感じながらも、彼女は少し困ったように笑った。

「うん、お酒飲んでるからね。お水飲もうか」
「いいや違う! 俺はその、えぇと……お酒を飲んでない!」
「いやそれは嘘でしょ」
「ああ! 飲んだ……! だがそこまで酔ってはいないと思う!」

 ふわふわとまとまらない思考のなか、何とか思いの丈を理解してもらおうと言葉をあちこちから引っ張り出す。が、それもかえって「泥酔しています」と宣言しているようなもので、真剣には聞いてくれなかった。差し出された水を一気に飲み干して、一度大きく深呼吸をする。

「本当に……酔っているんじゃないんだ、俺は本当に、なまえ、お前のことが……」
「はいはい、ありがとうね」
「本気だぞ! 適当にあしらわないでくれ!」
「……適当にあしらわれたくないなら、酔ってる時に言わないで。それで真に受けて明日千秋くんが忘れてたら私、バカみたいじゃん」

 彼女はほんのり赤らんだ顔で、ちょっと不機嫌そうにそう言った。忘れるはずがない、こんなにはっきりとものを考えているのに忘れてしまうはずがない……とは思うものの、アルコールで浮ついた頭では断言することすら覚束ない。

「……ん? 酔ってなければ受け入れてくれるということか……?」
「さあ?」
「なるほど……なら簡単だな! 明日の朝一番にもう一度告白をしよう、そうしたら今度こそ頷いてくれるんだな!?」
「ノーコメント」

 とは言いつつ彼女もちょっと照れたように顔を赤くしているし、ほとんどイエスと言っているようなものだ。そう思うと途端になんだか嬉しくなって、ニコニコと馬鹿みたいに満面の笑みを浮かべてしまった。

「ふふん、明日の朝が楽しみだ……☆ そうと決まれば早く家に帰って寝ようじゃないか!」
「うんそうだね、帰ろうか」
「はっ……しまった、今俺はどうしようもなくお前と離れたくない……! どうすればいい!?」
「も〜そんなの知らない! 今日は大人しく帰って!」

 さっさと会計を済ませ、彼女は俺を引っ張って店を出るとタクシーを捕まえた。ふわふわと覚束無い足取りのまま、タクシーの後部座席に押し込まれる。

「明日の朝忘れてたら怒るから……! おやすみ!」
「ああ、おやすみ!」

最後に彼女の首に抱きついて元気に挨拶をしてから、ひらひらと手を振って帰路に着いた。



 ――今思い返せば本当に馬鹿なことをしてしまったと思う。二日酔いで痛む頭でも昨晩のことは鮮明に思い出せた。現在時刻は正午すぎ……まだギリギリ朝ということになるだろうか。とにかく、今すぐ彼女に会いに行かないと。

ヒーローは遅れてやってくるなんて言うけれど、今回ばかりは遅れるわけにはいかない。頼む、間に合ってくれ!