幸せの子
*結婚して子供産んでます注意。
子どもをつくることに、かつては抵抗があった。というのも、彼の家柄からして生まれてくる子どもが彼と同じような幼少期を過ごさざるを得ないことは明白だったからだ。彼は生まれてくるわが子が普通よりも幸福になりづらいのではないか、と、そう思うがゆえにあまり子どもをつくることに積極的ではなかった。
「ちょ……っ弓弦くん来て……!」
「はいはい、いかがなさいました?」
小声で呼ばれ、彼はベビーベッドのある部屋に駆けつけた。彼女に言われるままベッドを覗き込むと、まだ小さなわが子がそのふっくらとしたあどけない手で、彼女の人さし指をきゅっと握っているのが見えた。おしゃぶりをくわえたまま楽しそうに笑っているのを見て、彼は思わず頬をゆるませる。
「可愛い〜……ねぇほんとに語彙なくなるんだけど……可愛すぎる……誘拐されたりしないかな……?」
「フフ、万が一そのようなことがありましたらわたくしが奪還致します」
彼女の肩にそっとブランケットを羽織らせ、彼はわが子を見つめる彼女の横顔を見つめた。
結婚してから一年ほど経って妊娠がわかったとき、二人で一緒に絶対幸せにしよう、と彼女は強く言いきった。今ではこのちいさないのちが、彼には何より愛おしくて仕方ない。
「……ちっちゃい手。可愛いね」
「ええ、本当に」
「私、ほんとはね。子ども苦手だったの、自分が産むなんて全然考えたこともなかった」
「……そうだったのですか? わたくしはてっきり……」
彼女はうとうとと眠りかけている赤子を優しく撫でてやりながら、幸せを噛み締めるように微笑む。彼にはその微笑みが聖母のように美しく見えた。
「うん、ちゃんと面倒見れるのかなとか愛してあげられるのかなとか……色々考えてた。でも、弓弦くんの赤ちゃんなら絶対可愛いって、絶対愛せるって……産みたいって思ったの」
「実際産んでみて、いかがでしたか?」
愚問だとわかってはいたけれど、彼はわざわざ言葉にして彼女に訊ねた。彼女はやっぱり言うまでもないというふうに満面の笑みを返した。
「すっごく幸せ」
「……ええ、わたくしも同じ気持ちでございます」
「ふふっ、なんかくすぐったいね」
「本当に。……ですがこの子がいつか大きくなって、一人前に恋をしたりするのかと思うと胸が冷える思いです」
「あ〜……娘だもんね、彼氏連れてくる日もいつかは……」
二人してそんな雑談を交わしていると、ようやく眠りかけていた赤子がほにゃほにゃと泣きだした。軟体動物のような柔い輪郭の体を、彼女はそっと抱き上げよしよしとあやすように背を撫でる。
彼は困ったように笑う彼女と元気いっぱいに泣きわめくわが子を、目に焼きつけるようにじっと見つめた。それでも依然として幸せは溢れてくるばかりだった。
子どもをつくることに、かつては抵抗があった。というのも、彼の家柄からして生まれてくる子どもが彼と同じような幼少期を過ごさざるを得ないことは明白だったからだ。彼は生まれてくるわが子が普通よりも幸福になりづらいのではないか、と、そう思うがゆえにあまり子どもをつくることに積極的ではなかった。
「ちょ……っ弓弦くん来て……!」
「はいはい、いかがなさいました?」
小声で呼ばれ、彼はベビーベッドのある部屋に駆けつけた。彼女に言われるままベッドを覗き込むと、まだ小さなわが子がそのふっくらとしたあどけない手で、彼女の人さし指をきゅっと握っているのが見えた。おしゃぶりをくわえたまま楽しそうに笑っているのを見て、彼は思わず頬をゆるませる。
「可愛い〜……ねぇほんとに語彙なくなるんだけど……可愛すぎる……誘拐されたりしないかな……?」
「フフ、万が一そのようなことがありましたらわたくしが奪還致します」
彼女の肩にそっとブランケットを羽織らせ、彼はわが子を見つめる彼女の横顔を見つめた。
結婚してから一年ほど経って妊娠がわかったとき、二人で一緒に絶対幸せにしよう、と彼女は強く言いきった。今ではこのちいさないのちが、彼には何より愛おしくて仕方ない。
「……ちっちゃい手。可愛いね」
「ええ、本当に」
「私、ほんとはね。子ども苦手だったの、自分が産むなんて全然考えたこともなかった」
「……そうだったのですか? わたくしはてっきり……」
彼女はうとうとと眠りかけている赤子を優しく撫でてやりながら、幸せを噛み締めるように微笑む。彼にはその微笑みが聖母のように美しく見えた。
「うん、ちゃんと面倒見れるのかなとか愛してあげられるのかなとか……色々考えてた。でも、弓弦くんの赤ちゃんなら絶対可愛いって、絶対愛せるって……産みたいって思ったの」
「実際産んでみて、いかがでしたか?」
愚問だとわかってはいたけれど、彼はわざわざ言葉にして彼女に訊ねた。彼女はやっぱり言うまでもないというふうに満面の笑みを返した。
「すっごく幸せ」
「……ええ、わたくしも同じ気持ちでございます」
「ふふっ、なんかくすぐったいね」
「本当に。……ですがこの子がいつか大きくなって、一人前に恋をしたりするのかと思うと胸が冷える思いです」
「あ〜……娘だもんね、彼氏連れてくる日もいつかは……」
二人してそんな雑談を交わしていると、ようやく眠りかけていた赤子がほにゃほにゃと泣きだした。軟体動物のような柔い輪郭の体を、彼女はそっと抱き上げよしよしとあやすように背を撫でる。
彼は困ったように笑う彼女と元気いっぱいに泣きわめくわが子を、目に焼きつけるようにじっと見つめた。それでも依然として幸せは溢れてくるばかりだった。