「南雲くん」
「いや違うんス、これはあの」
「南雲くん座りなさい」
「……ッス」

 小さな机を挟んでお互い正座で向かい合って、でも俺は目を合わせないまま顔をちょっと俯けていた。目の前には悲惨な点数のテストの答案が置かれている。

「なんでこんなことになっちゃったのかな」

大学生でアルバイトとはいえ長いこと俺の家庭教師をしてくれてる先輩は、小さい子を叱るみたいに訊ねてきた。

「その……ら、ライブが近くて……すっかり忘れてたッス……」
「そっか。……忘れるのは良くないね。起こったことはもう仕方ないし、南雲くんがライブに一生懸命なのはわかるからあんまり責めたりはしないけど。でも南雲くんはまだ学生なんだからね、あんまり疎かにしすぎるのは良くないんじゃないかな」

 先輩がゆっくりと静かな声でそう話すのを、俺はしょぼくれて身を縮こませながら大人しく聞いていた。

ちょうどこの小テストの前日か前々日にあったライブは、規模こそそんなに大きくはなかったけれど初めて先輩が見にきてくれたライブだった。

だから精一杯かっこいいところを見せてやろうと張り切って、結果、先輩を裏切るようなことをしてしまった。

「……あんまりこういうことが続くなら、私、もっと賢い人に代わってもらおうかな」
「えっ!? ど、っどういうことッスか!?」

 いきなりの爆弾発言に驚いて顔を上げると、真剣な顔をした先輩と目が合った。

「南雲くんの成績を伸ばせないのに、お金をもらって家庭教師をするのは不誠実だと思うし怠慢だと思うの。それなら同じお金でもっと他の……」
「俺はそんなの絶対嫌ッスよ!」

バンッ、と机に手を置いて身を乗り出す。先輩はちょっとびっくりしたみたいに目を丸くして俺を見ていた。自分でも不思議だったけど、先輩以外の誰かに勉強を教えられるなんてどうしても嫌だった。

「そんなに嫌なの?」
「嫌ッス!」

 真正面から見つめあうと、なぜだか心臓がバクバクと走った後みたいに速くなる。なんとなく気恥ずかしくなるけど、視線を外せなくなって黙り込んでしまった。するとちょっと黙ってから、先輩は可笑しそうに笑った。

「そっか。ふふ、それなら次のテストは一緒に頑張ろうね」
「……押忍! 最高記録を叩き出してやるッスよ!」

 グッ、と握りこぶしをつくって強く言いきる。テストでいい点を取りたいというより、先輩にいなくなってほしくない気持ちの方がずっと強かった。それがなんでなのかは、ちょっとまだわからないけど。