柔らかな陽光を浴びているとき、ふと、対義語にも等しい体質の彼のことを思い出した。彼……凛月くんは太陽の光にめっぽう弱いらしく、アイドル活動や学校生活ではかなり無理をして日中に活動をしているらしい。

 ところで、人間は太陽の光を浴びると幸せを感じるホルモンが分泌される。積極的には太陽の光を浴びることのできない彼は、ひょっとしてそういう幸せホルモンの分泌が人より少なかったりするのだろうか。

「……ふーん? そんなのがあるんだ」
「うん、だから鬱のひととかはなるべく日に当たるほうがいいんだって」

夜、彼と二人でベッドに寝転んだまま、ふと思い出してそういう話をした。すると彼はにやりと笑って私のお腹あたりに手を回し、抱き寄せてきた。

「じゃあ俺って人より不幸ってこと?」
「え……、んん? それは違う気がする……ごめんね、変なこと言って……怒った?」

 よくよく考えれば失礼で無神経な物言いだったかもしれない、と恐る恐る凛月くんの顔を覗き込む。けれど不機嫌な様子はちっとも見えず、むしろどこか上機嫌そうに見えた。

「怒ってない。ねぇ、幸せホルモンってハグでも分泌されるの知ってた?」
「え、そうなの?」
「うん、ハグとかキスでも出るんだよ。だから俺は太陽にもらえないぶん、なまえに幸せをもらえば良いってこと……♪」

 子猫がじゃれつくみたいに、彼は私の上に乗りかかって何度も食むようなキスをしてきた。手を指まで絡めてぴったりと肌を寄せ合いくちびるを重ねると、確かに頭がふわふわして幸せな気持ちになる。

これが例のホルモンの影響なのかはいまいちわからないけれど、今がどうしようもなく幸せだということだけは確かだった。

 彼は優しい手つきで私の頭を撫で、キスの合間に薄く目を開けて私を見つめた。

「ふふ、可愛い。心配しなくても、なまえがこうやって触れさせてくれたら俺は世界で一番幸せだから」
「……うん、私も」

体温を分かち合うように抱きしめあって、全身で精一杯幸せを享受する。

二人でいられるのならきっと、太陽の光なんてちっとも必要じゃない。幸せになるためにはただ、お互いだけが居てくれさえすればいいんだろう。

彼の柔いくちびるに触れながら、そんな他愛もない戯言を心の中に思い浮かべた。