「うん、大丈夫だから」

 大丈夫、大丈夫、それがあいつの口癖だった。俺はそれがすごく嫌だったし嫌いだった。泣きそうな顔でも、ひどく疲れた顔でも、俺には何にも言ってくれないから。それがどうしようもなくもどかしくて情けなくて、胸がもやもや黒くなるから嫌だった。

「……レオくん、あのね、ほんとうはね」

 小雨の降る静かな夜のことだった。ベッドのなかで、俺の目の前でなまえは泣いていた。真珠みたいに綺麗な涙だった。ぽつぽつと零れる声を、俺は聞き漏らさないように耳を澄ましていた。

「ずっとつらかったの、もう、抱えきれなくって、どうしようって思って」
「うん、」
「レオくんには心配かけたくなくて、言いたくなくて、大丈夫って言ってたけど、ごめんなさい……私、」
「うん、大丈夫、ちゃんとわかってるからな」

 背中に腕を回して、ちょっとぎこちなく、細い身体を力いっぱい抱き締めた。肩のあたりがちょっとずつ濡れていくと、つられて俺の視界も滲んでしまった。

「……俺たち、多分すごく弱いから、だからぜんぶ半分こしよう。つらいのも嬉しいのも半分こしたら、多分上手くいくから」

 鼻をすすりながら、俺はそう言って腕に力を込めた。震える声が「うん」と短く返事して、それから細い腕が俺の背中に回される。

「俺の前だけでいいから、うそつかないでくれ。うそつかなくても生きていけるように、ふたりでいよう」
「うん、うん。ありがとう」

抱き締めた身体は俺よりも細っこくて弱っちくて、でも多分俺だってきっと負けず劣らず弱いんだろうなって思った。

 広い世界のすみっこのほうで、こうやって体を寄せあって、ふたりで正直に生きていけたらそれだけでいいのに。俺の大切な片割れが、もう嘘なんかつかなくても生きていけますように……なんて。どうせ叶わないことはわかっていたのに願ってしまった。

 夜明けはまだこないけど、でもその間にもふたりでいられたらきっと大丈夫だから。