「あれ、七種さん、ネックレス買ったんですか?」
「ああいえ、これは……恋人からの贈り物というやつです」

 と、彼は確かにそう言った。七種さんがちょっと照れたようにぶっきらぼうな言い方をするのを、……その表情を、私は初めて見た。

「へぇ……そう、なんですか」
「いやぁ、お恥ずかしい。忘れてください」

くしゃりと、いつもよりちょっと不器用に笑う彼は、それでもやっぱりかっこよかった。彼の首にぶら下がったチェーンを通した指輪がきらりと輝く。彼は指輪をシャツの下に隠して、吸いかけていた煙草をまた手に取った。

 まぁ恋人くらいいるよなぁ、なんて、空っぽになった心でぼんやりと呟いた。仕事もできてかっこよくて頭も良くて、こんなにいい人に恋人がいないわけがない。

それでも私はどこかで淡い期待を抱いていたんだと思う。漫画や小説みたいに、彼が私に振り向いてくれることだってあるのかもしれない……なんて。

「結婚とかは考えてないんですか?」
「ああ、考えていますよ。ただ今は忙しいですし大事な時期でもありますから、待たせてあります」
「待ってくれるんですね、素敵だなぁ」
「まぁもうずいぶん長いですから」

 ふぅ、と吐き出した煙の匂いさえ、私はもうすっかり覚えてしまっていた。けれどそんなことはそっと胸の中にしまいこんで、ちゃんと祝福と応援をしているふうを装った。無理に笑顔をつくる自分が気持ち悪くて情けなくて仕方なかった。



 どこか呆然としたまま仕事を終えて、いつも通り七種さんや同僚の子たちに挨拶をして、事務所を出た。そしてどうせ吸いきらないくせに、帰りのコンビニでふらりと煙草を買った。店員さんにぎこちなく番号を告げ、いつも彼が持っていたものと同じ銘柄の煙草を受け取った。

 私は、帰りがけにある小さな寂れた公園でそっと一本を手に取り火をつけて吸ってみた。でもやっぱり苦いばかりで、しかも吸うと器官に入ってむせてしまった。ひとり、馬鹿みたいにげほげほと咳き込む。

涙が出たのはきっと煙が目にしみたから、それだけ。……それだけ。