The sweet CAKE
*コメットショウ、サブマリンなどからの個人的な解釈が多く含まれます。地雷っぽいなと思ったらブラウザバックしてください。
子どもの頃からずっと、ヒーローになりたかった。今はその夢が叶ったんだろうか。流星隊の隊長として、流星レッドとして、ありがたいことに沢山のひとに応援してもらっているし、それなりのメディア露出もある。でも昔夢見ていたヒーローに、俺はなれているんだろうか。
「――レッドを俺に返してほしい」
守るべき子どもたちを傷つけて振り回してわがままを言って、それでもヒーローを名乗っても良いのだろうか。そんなことをぐるぐると考えるばかりで、なかなか頭のなかがすっきりしない。
「千秋くん?」
テーブルを挟んで目の前に座った彼女に呼ばれて、ハッと我に返る。せっかく久しぶりに二人で遊ぶことになったというのに、ついボーッとしてしまっていた。
「あ、あぁ、すまん、少しボーッとしていた」
「……最近、なんか元気ないね」
「ああ……少し、悩みというか……改めて疑問に思うことがあってな。でも心配はいらないぞ! 今日は一旦忘れて楽しもう!」
少し無理やり元気を出してみるが、彼女は心配そうな表情のまま、まっすぐに俺の目を見つめてきた。
「私も千秋くんとの久しぶりの外出だから、目一杯楽しみたいよ。でも千秋くんが自分を偽って楽しんでるふりをするのは嫌、確かに私は千秋くんのただの友達でしかないけど……心配くらいさせてほしいな」
「……あぁ、すまん」
本当に不甲斐ないな、と反省して、少し目線を落とした。しかし言葉にして相談できるほど、心の中の靄は整理がついていない。俺が黙り込んでいると、店員が頼んでいたケーキセットを運んできた。
「ほら、甘いもの食べて息抜きしよう。話したくないなら話さなくてもいいの、ただ、言葉にすると楽になることもあるから」
「そうだな……。うん、いただきます」
手を合わせてから、柔らかなスポンジのショートケーキにフォークを入れる。やさしい甘さが口に広がったとき、不意に心が溶けていくような心地がした。
「……俺は、小さい頃からヒーローになりたかったんだ」
「……うん」
「特撮なんかで見るような正義のヒーローに、いつも正しくカッコよく、たくさんの人を救うようなヒーローになりたかった」
「うん」
俺がぽつりぽつりと語るのを、彼女はただ静かに聞いてくれた。
「ずっと……憧れるだけで、なれなかった。でも流星隊に入って、奏汰に出会って、色んなことがあって。未来ある子どもたちも一緒にヒーローを目指してくれて……本当に色々な困難があったが、俺はやっとヒーローに近づけたんだと思っていた」
フォークを握ったまま、しかしこれ以上ケーキに手をつけることもできずにいた。彼女も俺に合わせてなのか、目の前にあるケーキを食べないまま相槌を打ってくれる。
「…………わからないんだ。高峯が駄々を捏ねてくれて、俺たちに訴えかけてくれて、流星隊は元の形に戻った。俺は流星レッドとして今後も活動していくことになった。でも本当にそれで良かったんだろうか……? 今更決断をひっくり返すことなんてもちろんしないが、もっと他に良い道はなかったんだろうか。南雲も高峯も仙石も、傷つかないような選択が……」
ほとんど独り言のようにぶつぶつと話をして、やっと我に返った。せっかくのご飯だと言うのに彼女には全く関係の無い話をしても困らせてしまうだけだ。誤魔化すように笑って話を切り上げようとすると、彼女が遮るように口を開いた。
「千秋くん、私もヒーローが好きだよ。いつでもカッコよくて強くて頼りになって……でも最近はさ、ヒーローだって神さまじゃなくて人間なんだよねって、そういうところも含めて好きだなって思うの」
「……」
「人間の尊いところって多分、弱いことなんて前提で、それでもそれを克服しようと努力するところにあるんじゃないかな。完璧じゃないから間違えることだってあるけど……間違えたら絶対ダメなんて、そんなの全人類ダメになっちゃうよ」
全てを許容するような言葉に、完全には納得できなかった。俺が黙ったまま何も答えないのを見て、彼女は少し困ったように笑う。
「過去は変えられないし、起こったことはどうにもならないと思う。それにこれから何度も後悔しちゃうのかもしれない。でもヒーローであろうとする限り、私は千秋くんを応援するし、千秋くんの味方だよ。多分だけど、深海さんも後輩さんたちもそうなんじゃないかな」
「……そう、だろうか……」
本当は、ひとつのホールケーキを五人で等分したかった。いや、甘い幸せを子どもたちに全部思う存分食べてほしかった。それでも結果的に、子どもたちからケーキを奪うような……おあずけにするようなことを、俺はしてしまったのだ。不等分に切り分けてしまったケーキは、もう元には戻らない。それでも。
「……今からでも、遅くないだろうか」
「うん。遅いことなんてひとつもないよ。これから始めていけばいいんだよ」
「そうだな……ああ、その通りだ。俺が立ち止まって進まないままのほうがずっとあいつらに失礼だな」
また新しいケーキを皆で作っていけばいい。また五人で足並みを揃えて、不格好でも皆で作ればきっと美味しいと思える。多分こうやって想像するほどうまくはいかないだろうが、それでも構わないんだ。
俺はぎゅっとフォークを握る手に力を込めて、少し落としていた視線を上げ彼女を見つめた。
「ありがとう。少し楽になった気がする」
「良かった。ごめんね、結局いっぱい口出ししちゃって」
「いや、確かに言葉にして聞いてもらったうえで返事をもらえると、なんとなく頭が整理されるな。真剣に聞いてくれてありがたいぞ」
「それなら良いけど……ほら、紅茶冷めちゃうよ。今はゆっくり心を休めよう」
彼女は優しく微笑んで、自身の注文していたホットのレモンティーをひとくち飲んだ。
「なあ、あの……答えたくないなら良いんだが……お前はどうしてこんなに優しくしてくれるんだ? 俺は……お前の好意を踏みにじってしまったのに」
「えっ……あはは、なんか恥ずかしいな……。優しくするのなんて好きだからに決まってるでしょ、それに別に踏みにじられてなんかないよ」
「そうか……。なあ、」
「うん?」
俺は自身のティーカップを持ち上げ、一度喉を潤してから静かにカップを置いた。目線は無理やりにでもまっすぐ彼女に向けて、気合を入れるように大きく息を吸う。彼女は少し不思議そうな顔で俺を見つめ返していた。
「……見てのとおり、今は一人を真摯に愛し抜くほどの度量が俺にはない。そんな状態でお前の思いを受け入れるのは不誠実だと思ったんだ。でも……その、」
「千秋くん」
「なっ、なんだ!?」
「……良いよ、無理に何か、答えを出そうとしなくても。今はそれどころじゃないっていうのは何となくわかるし、別に恋人じゃなくても私はこうしてお出かけできるだけで楽しいから。無理に名前をつけて整えなくていいよ」
そうやって優しく微笑みを浮かべた彼女は、別に強がっているようにも本心を偽っているようにも見えない。笑って赦して、俺のほしい言葉をくれる。それがどれだけ贅沢なことか、わからないほど俺は子供じゃない。
「…………そうだな。名前はいらない。だが……もしお前さえ赦してくれるなら、俺がお前をきちんと真摯に愛せるようになるまで……待っていてくれないだろうか。いつかその日が来たら、きっと今度は俺から告白させてくれ」
「……あはは、ひどいひと。でも良いよ、待っててあげる。ずっとずっと、待ってるからね」
「ああ、ありがとう」
どれほど自分勝手な願いだろう。それでも彼女は笑って嬉しそうに頷いてくれた。真っ赤なイチゴの乗ったショートケーキにまたフォークをさす。ひとくちめよりずっと甘くてやさしい味がする……ような気がした。
子どもの頃からずっと、ヒーローになりたかった。今はその夢が叶ったんだろうか。流星隊の隊長として、流星レッドとして、ありがたいことに沢山のひとに応援してもらっているし、それなりのメディア露出もある。でも昔夢見ていたヒーローに、俺はなれているんだろうか。
「――レッドを俺に返してほしい」
守るべき子どもたちを傷つけて振り回してわがままを言って、それでもヒーローを名乗っても良いのだろうか。そんなことをぐるぐると考えるばかりで、なかなか頭のなかがすっきりしない。
「千秋くん?」
テーブルを挟んで目の前に座った彼女に呼ばれて、ハッと我に返る。せっかく久しぶりに二人で遊ぶことになったというのに、ついボーッとしてしまっていた。
「あ、あぁ、すまん、少しボーッとしていた」
「……最近、なんか元気ないね」
「ああ……少し、悩みというか……改めて疑問に思うことがあってな。でも心配はいらないぞ! 今日は一旦忘れて楽しもう!」
少し無理やり元気を出してみるが、彼女は心配そうな表情のまま、まっすぐに俺の目を見つめてきた。
「私も千秋くんとの久しぶりの外出だから、目一杯楽しみたいよ。でも千秋くんが自分を偽って楽しんでるふりをするのは嫌、確かに私は千秋くんのただの友達でしかないけど……心配くらいさせてほしいな」
「……あぁ、すまん」
本当に不甲斐ないな、と反省して、少し目線を落とした。しかし言葉にして相談できるほど、心の中の靄は整理がついていない。俺が黙り込んでいると、店員が頼んでいたケーキセットを運んできた。
「ほら、甘いもの食べて息抜きしよう。話したくないなら話さなくてもいいの、ただ、言葉にすると楽になることもあるから」
「そうだな……。うん、いただきます」
手を合わせてから、柔らかなスポンジのショートケーキにフォークを入れる。やさしい甘さが口に広がったとき、不意に心が溶けていくような心地がした。
「……俺は、小さい頃からヒーローになりたかったんだ」
「……うん」
「特撮なんかで見るような正義のヒーローに、いつも正しくカッコよく、たくさんの人を救うようなヒーローになりたかった」
「うん」
俺がぽつりぽつりと語るのを、彼女はただ静かに聞いてくれた。
「ずっと……憧れるだけで、なれなかった。でも流星隊に入って、奏汰に出会って、色んなことがあって。未来ある子どもたちも一緒にヒーローを目指してくれて……本当に色々な困難があったが、俺はやっとヒーローに近づけたんだと思っていた」
フォークを握ったまま、しかしこれ以上ケーキに手をつけることもできずにいた。彼女も俺に合わせてなのか、目の前にあるケーキを食べないまま相槌を打ってくれる。
「…………わからないんだ。高峯が駄々を捏ねてくれて、俺たちに訴えかけてくれて、流星隊は元の形に戻った。俺は流星レッドとして今後も活動していくことになった。でも本当にそれで良かったんだろうか……? 今更決断をひっくり返すことなんてもちろんしないが、もっと他に良い道はなかったんだろうか。南雲も高峯も仙石も、傷つかないような選択が……」
ほとんど独り言のようにぶつぶつと話をして、やっと我に返った。せっかくのご飯だと言うのに彼女には全く関係の無い話をしても困らせてしまうだけだ。誤魔化すように笑って話を切り上げようとすると、彼女が遮るように口を開いた。
「千秋くん、私もヒーローが好きだよ。いつでもカッコよくて強くて頼りになって……でも最近はさ、ヒーローだって神さまじゃなくて人間なんだよねって、そういうところも含めて好きだなって思うの」
「……」
「人間の尊いところって多分、弱いことなんて前提で、それでもそれを克服しようと努力するところにあるんじゃないかな。完璧じゃないから間違えることだってあるけど……間違えたら絶対ダメなんて、そんなの全人類ダメになっちゃうよ」
全てを許容するような言葉に、完全には納得できなかった。俺が黙ったまま何も答えないのを見て、彼女は少し困ったように笑う。
「過去は変えられないし、起こったことはどうにもならないと思う。それにこれから何度も後悔しちゃうのかもしれない。でもヒーローであろうとする限り、私は千秋くんを応援するし、千秋くんの味方だよ。多分だけど、深海さんも後輩さんたちもそうなんじゃないかな」
「……そう、だろうか……」
本当は、ひとつのホールケーキを五人で等分したかった。いや、甘い幸せを子どもたちに全部思う存分食べてほしかった。それでも結果的に、子どもたちからケーキを奪うような……おあずけにするようなことを、俺はしてしまったのだ。不等分に切り分けてしまったケーキは、もう元には戻らない。それでも。
「……今からでも、遅くないだろうか」
「うん。遅いことなんてひとつもないよ。これから始めていけばいいんだよ」
「そうだな……ああ、その通りだ。俺が立ち止まって進まないままのほうがずっとあいつらに失礼だな」
また新しいケーキを皆で作っていけばいい。また五人で足並みを揃えて、不格好でも皆で作ればきっと美味しいと思える。多分こうやって想像するほどうまくはいかないだろうが、それでも構わないんだ。
俺はぎゅっとフォークを握る手に力を込めて、少し落としていた視線を上げ彼女を見つめた。
「ありがとう。少し楽になった気がする」
「良かった。ごめんね、結局いっぱい口出ししちゃって」
「いや、確かに言葉にして聞いてもらったうえで返事をもらえると、なんとなく頭が整理されるな。真剣に聞いてくれてありがたいぞ」
「それなら良いけど……ほら、紅茶冷めちゃうよ。今はゆっくり心を休めよう」
彼女は優しく微笑んで、自身の注文していたホットのレモンティーをひとくち飲んだ。
「なあ、あの……答えたくないなら良いんだが……お前はどうしてこんなに優しくしてくれるんだ? 俺は……お前の好意を踏みにじってしまったのに」
「えっ……あはは、なんか恥ずかしいな……。優しくするのなんて好きだからに決まってるでしょ、それに別に踏みにじられてなんかないよ」
「そうか……。なあ、」
「うん?」
俺は自身のティーカップを持ち上げ、一度喉を潤してから静かにカップを置いた。目線は無理やりにでもまっすぐ彼女に向けて、気合を入れるように大きく息を吸う。彼女は少し不思議そうな顔で俺を見つめ返していた。
「……見てのとおり、今は一人を真摯に愛し抜くほどの度量が俺にはない。そんな状態でお前の思いを受け入れるのは不誠実だと思ったんだ。でも……その、」
「千秋くん」
「なっ、なんだ!?」
「……良いよ、無理に何か、答えを出そうとしなくても。今はそれどころじゃないっていうのは何となくわかるし、別に恋人じゃなくても私はこうしてお出かけできるだけで楽しいから。無理に名前をつけて整えなくていいよ」
そうやって優しく微笑みを浮かべた彼女は、別に強がっているようにも本心を偽っているようにも見えない。笑って赦して、俺のほしい言葉をくれる。それがどれだけ贅沢なことか、わからないほど俺は子供じゃない。
「…………そうだな。名前はいらない。だが……もしお前さえ赦してくれるなら、俺がお前をきちんと真摯に愛せるようになるまで……待っていてくれないだろうか。いつかその日が来たら、きっと今度は俺から告白させてくれ」
「……あはは、ひどいひと。でも良いよ、待っててあげる。ずっとずっと、待ってるからね」
「ああ、ありがとう」
どれほど自分勝手な願いだろう。それでも彼女は笑って嬉しそうに頷いてくれた。真っ赤なイチゴの乗ったショートケーキにまたフォークをさす。ひとくちめよりずっと甘くてやさしい味がする……ような気がした。