※バッドエンドです


 理解できない人というのは、存外世の中に溢れ返っているものだ。私は彼を見て、彼と言葉を交わすたびに深くそう思う。

「こんにちは。好きです、三毛縞さん」
「ああ、こんにちは。君はなかなか懲りないなあ……」
「……本当に、好きですから」

私が初めて意を決して彼に告白した日から、いったいどれくらい経っただろう。一向にハッキリとした返事をくれないものだから、最近は顔を合わせるたびにこうして告白をしている。

 私が「好きです」と言うと、彼は決まってちょっと困ったような顔で笑う。それでもハッキリ答えないのはどうしてなのか。もしそれが「どうせすぐ飽きるか諦めるかするだろう」という予測にもとづくのだとしたら、それは間違いだとしか言いようがない。

「ん? 今日は編み込みにしているんだなあ?」
「……はい。三毛縞さんとお揃い、にしたくて」

些細な変化なんて見ないふりしてくれればいいのに。こんなふうにわざと口にするから、私もなかなか諦められずにいるのだ。

 いっそのことハッキリ、「迷惑だ、応える気はない」と言ってくれたら、大泣きしたってちゃんと諦められるのに。

「難しかっただろう、よく頑張ったんだなあ」
「はい、何回もやり直して……三毛縞さんは器用なんですね。いつも綺麗に結わえているからてっきり簡単なのかと」
「あはは、そうだなあ。……おいで」
「え」

手を引かれ、いつもより近い距離で三毛縞さんが私を見下ろす。そして大きな手で私の髪に触れ、するりと髪ゴムを外した。

「手直ししてあげよう、じっとしているんだぞお」
「……最低」
「えっ?」
「なんでもないです……」

 指先が髪に触れるだけでも、いつもより近い距離に彼がいるだけでも、私はこんなに心臓がうるさくて仕方ないのに。彼だってそんなことわかっているはずなのに、どうして、どうしてこんなふうに私を掻き乱すことばかりするのだろう。

 私はしばらく貝のように押し黙ってピクリとも動かずにいた。けれどとうとう耐えられなくなって、彼が髪を結わえている最中に口を開いた。

「あの、私……私、本当に三毛縞さんのことが好きです」
「……俺は君みたいな子に好かれるような人間じゃない。ちょっと頼りになる丁度いい男が俺だっただけで、君には俺じゃなくてもいい。いや、俺じゃない方が」
「そんなの貴方が決めることじゃないでしょう!?」

つい声を荒らげてしまう。一瞬口を抑えようとしかけたが、一度破ってしまった均衡はもう元には戻らなくて、彼の手を跳ね除け、髪も解けたままで真正面から彼を見た。

「私には……ううん、三毛縞さんがほかの女の子のものになるのが嫌なんです、鬱陶しいって、私のことなんか眼中に無いっていうならはっきりそう言ってください……!」
「…………そうだな。ああ、その通りだ。無意味に結論を先延ばしにするのは不誠実だよなあ。…………なのにどうして上手くいかないんだろうな」

 三毛縞さんの大きな手が、一瞬、私の肩に触れようと近付いてきた。けれど直前で怖気付くように手を引っ込めて、結局握りこぶしをつくったまま手を下ろしてしまった。

「すまない。俺が君に振り向くことはないし、これ以上君に何を言われても君の望むような関係にはなれない」
「…………最初から、そう言えば良かったんですよ」

強がってそんなことを吐き捨てて、涙が溢れてしまう前に踵を返す。三つ編みはほどけたまま、大股で逃げるように三毛縞さんから離れた。

本当は引き留めてくれるんじゃないかなんて、ほんと少しだけ夢を見ていた。でも所詮夢は夢だった。