夜明け
ふ、と目を覚ますと、穏やかな寝顔がまっさきに視界に飛び込んできました。ぼうっと五秒、いえ十秒ほど黙り込んで、私は脳裏に焼き付けるように彼女の寝顔を見つめておりました。
桜桃のようなふっくらとした唇は、いつもなら饒舌に上機嫌に愛らしい声を発するというのに、今ばかりはただ黙って小さく寝息を立てているようです。
少し乱れた柔らかな髪も、規則正しく上下する薄い肩も、じっと伏せられた長い睫毛も、ただ眠っているだけのその姿があんまり愛おしいものですから、ついその頬を指の背で撫でてしまいました。
「ん……」
「!」
起こしてしまったかと思い手を退けましたが、閉じられた瞼が開くことはなく、ひとりでホッと胸を撫で下ろしました。
いっそのこと起こしてしまいたいような、このまま寝顔を見つめていたいような。起こすとしたら朝一番ですから、とびきりの愛と驚きをお届けしなくては。
音を立てないよう注意しながら上半身を起こし、彼女の頭の横へ手をついて寝顔を覗き込みました。
「……んぅ、う〜……」
「……」
気配を感じ取ったのか、彼女は眉を寄せて寝返りを打ち、もごもごと寝言未満の声を発しました。そのとき、私は恐らくほとんど何にも考えていなかったのですが、何気なく彼女の唇にキスをしてしまったのです。
ずいぶん陳腐な起こし方をしてしまったと反省しましたが、幸か不幸か彼女はそれだけでは目覚めませんでした。
しかしそれもなんとなく歯痒く思われたものですから、彼女が起きるまで何度も、鼻や頬や額や唇に何度もキスを落としました。するとしばらくしてから、彼女の手が弱々しく私の後頭部に触れたのです。
「わたる……? よしよし……どしたの……?」
「いえ、眠り姫にキスをと思いまして」
「え〜……やだ、まだ眠いよ……もうちょっと寝よ、ね、ほらおいで」
彼女はとろとろと眠たげな調子でそう言って、私を抱き寄せました。そうして母親が子供にするように背を優しく撫で、私のつむじの辺りに唇を寄せました。
「よしよし、いい子いい子……」
「……敵いませんね」
大人しく力を抜いて、彼女の体温に包まれながらもう一度目を閉じました。そうして次に目を覚ますと、今度は彼女が上機嫌そうに笑いながら私を見つめていたのでした。
桜桃のようなふっくらとした唇は、いつもなら饒舌に上機嫌に愛らしい声を発するというのに、今ばかりはただ黙って小さく寝息を立てているようです。
少し乱れた柔らかな髪も、規則正しく上下する薄い肩も、じっと伏せられた長い睫毛も、ただ眠っているだけのその姿があんまり愛おしいものですから、ついその頬を指の背で撫でてしまいました。
「ん……」
「!」
起こしてしまったかと思い手を退けましたが、閉じられた瞼が開くことはなく、ひとりでホッと胸を撫で下ろしました。
いっそのこと起こしてしまいたいような、このまま寝顔を見つめていたいような。起こすとしたら朝一番ですから、とびきりの愛と驚きをお届けしなくては。
音を立てないよう注意しながら上半身を起こし、彼女の頭の横へ手をついて寝顔を覗き込みました。
「……んぅ、う〜……」
「……」
気配を感じ取ったのか、彼女は眉を寄せて寝返りを打ち、もごもごと寝言未満の声を発しました。そのとき、私は恐らくほとんど何にも考えていなかったのですが、何気なく彼女の唇にキスをしてしまったのです。
ずいぶん陳腐な起こし方をしてしまったと反省しましたが、幸か不幸か彼女はそれだけでは目覚めませんでした。
しかしそれもなんとなく歯痒く思われたものですから、彼女が起きるまで何度も、鼻や頬や額や唇に何度もキスを落としました。するとしばらくしてから、彼女の手が弱々しく私の後頭部に触れたのです。
「わたる……? よしよし……どしたの……?」
「いえ、眠り姫にキスをと思いまして」
「え〜……やだ、まだ眠いよ……もうちょっと寝よ、ね、ほらおいで」
彼女はとろとろと眠たげな調子でそう言って、私を抱き寄せました。そうして母親が子供にするように背を優しく撫で、私のつむじの辺りに唇を寄せました。
「よしよし、いい子いい子……」
「……敵いませんね」
大人しく力を抜いて、彼女の体温に包まれながらもう一度目を閉じました。そうして次に目を覚ますと、今度は彼女が上機嫌そうに笑いながら私を見つめていたのでした。