「やあ。こんにちは、なまえちゃん。今日も天使みたいに可憐で美しいね」
「……こんにちは」

 もはや恒例になった僕の一方的な訪問に対し、彼女はやや不満げな顔をして視線を逸らした。彼女にあげようと思って持ってきたアクセサリーや服を机に置いて、ベッドのふちに腰かけたままの彼女に近づく。

「ふふ、なまえちゃんはいつ来ても眠たそうだね」
「別にそんなことないです」
「そう? あれ、そういえば僕のあげたルームウェアは着てくれていないんだね」
「あんなフリフリの服じゃ寝られません、し、あんなに高そうな物はもらえません。服以外も……持ってこられても困ります」

僕がひとり暮らしの彼女の家に押しかけるようになって、もう随分経つ。来るたびに何かと物をプレゼントしているのだけど、彼女がそれを受け取ってくれたことは一度もない。いつも僕が勝手にこの部屋へ置いて行ってしまうだけだ。

 女の子の好きそうな宝石の光るネックレス、指輪、ピアス、ブレスレット、それから高いブランド物の服や靴など、とにかく彼女に似合いそうなものは次から次へ買い与えた。それでも彼女は不満げな顔しか返してくれない。

「なら、次はなまえちゃんの今欲しいものを持って来るよ。何がいいかな? 何だったらこんな狭いアパートじゃなくてもっと広いマンションを買っちゃおうか」

彼女の隣に腰掛けてさりげなくその手に自分の手を重ねる。すると彼女はうんざりしたようにため息をついて、それから、両手で僕の手を握り返した。

「いりません、別に何にも」
「……どうして?」
「言って欲しいんですか、わざわざ?」

柔い感触がやさしく温かく僕の手を包む。彼女はちょっとはにかむように笑って僕の目を見た。

 客観的に見て、僕は一般に好かれるようなたちの人間ではないと思う。だからこそ僕自身ではなく、自身に付随するもの――つまり財や権力によって、彼女にアピールすることが最適解だと思っていた。けれど思えば、贈り物こそ受け取ってもらえないが僕の訪問が拒まれたことは一度もない。

「私は、英智さんが来るだけで嬉しいですよ」
「……ちょっと信じられないな」
「なんでですか」
「どこを好かれているのかわからないというか。君が僕の何を気に入ったのかわからないから……あ、見た目とかかな。それなら少しは腑に落ちるけれど」

 僕がそう言うと、彼女はやっぱり呆れたように笑った。それから真っ直ぐ僕の目を見て、ほんのり頬を桃色に染めながら口を開いた。

「英智さんは私のこと好きなんでしょ」
「うん」
「私は、こんなに一途に好きでいてくれる英智さんが好きだよ。それじゃだめですか?」
「……そう、そっか。そうなんだ……」

すとん、と。不思議と腑に落ちたような気がする。すると後から後から嬉しさと愛しさが込み上げてきて、ゆるむ顔を見られないように彼女を抱き寄せた。

 彼女が恐る恐る僕の背に手を回す。体温と一緒に、どちらのものかわからない心音が振動になって伝わってきた。なんだかちょっとくすぐったいような気もするけれど、きっと彼女のほんとうに欲しかったものはこういうなんでもないような幸せだったんだろう。