いつもと変わらない、何気ない日々。毎年毎年春が来て、夏が来て、秋が過ぎて冬が来る。ちょっとした新鮮さも思い出もありながら、それでも大きく揺さぶられることはあんまりない。波のない穏やかな湖みたいな、やさしい毎日。

「お疲れさまァ、今お昼ご飯中?」
「藍良くん。お疲れさま、うん。今日は天気がいいから外で食べようと思って」

あんまり人のいない空中庭園の木陰のベンチでお弁当を広げたところに、彼はやって来た。彼はにっこりと無邪気に笑うと私の隣に腰を下ろす。

「奇遇だね、おれも今日天気良いからコンビニで買ってこっち来たんだァ。秋晴れ、で合ってるっけ? なんか雲が薄くて空が高くて綺麗だし良いよねェ」
「……うん、そうだね」

 少し冷たい風がビルの間を吹き抜けて、彼の細い銀髪を揺らした。彼の笑顔を見ると、不意に初めて彼と出会ったあの夏のことが思い出された。初めて会ったあのときから、彼は随分大人になってしまったように思える。背格好も雰囲気も変わってしまったように見えて、無邪気な笑顔だけは変わっていない。

「あの、さ。……ちょっとヘンな話なんだけど、聞いてもらってもいい?」
「? うん。どうしたの?」

彼はコンビニの袋からおにぎりを取り出したまま、封は開けずに視線を下へ向ける。こちらには視線を向けないまま、少し緊張したような声音で話を始めた。

「…………あの、最近、アイドルとか俳優さんとか、なんか結婚ラッシュみたいな感じしない? えっと、なんていうかァ……おれの推してるアイドルとかも結構熱愛報道とか結婚発表とか最近多くて、だからその……んっと、あんまりタブー視されなくなってきたのかなァって、思ったりして」
「うん、そうだね。結婚も交際も、アイドルだって普通に人間なんだから〜って認められてきてる気はする」

 私もつられてお弁当に手をつけられず、彼の横顔を見ながら相槌を返した。

「だっ、だよねェ! うん、おれもちょっと寂しい気持ちとかはあるけど、普通にいいことなんだろうなって思うし」

それで、と彼の真意を促すことはできなかった。なんとなく、この流れで言われることってひとつしかないんじゃないかな、と察しはついていた。

 藍良くんと出会って、もうどれくらい経っただろう。お互いもうすっかり大人になって、私たちは多分ずっとただの仕事仲間でいるんだろうと思っていた。ステージの上できらきら輝いてるアイドルとしての藍良くんが、私は好きだったから。

「だから……だから、っていうか前々からずっと思ってたんだけど。やっぱり諦められないし諦めたくないから、思いきって言うね。……っす、……えと、ちょっと待って…………んん、おれ、ずっと前からきみのことが好きでした、えっと、付き合ってくれませんかっ」

顔を真っ赤にしてそう告白されて、私はどんな反応をするべきだったんだろう。もしかすると、平然を装ってちゃんと一線を置くべきだったのかもしれない。

 けれど私は、返事を言う前にぼろぼろ泣いてしまった。嬉しくて幸せで、言葉はちっとも出てこなかった。彼はびっくりして慌てていたけど、やさしく私の背を撫でると辺りを見回してからぎゅっと抱きしめてくれた。

 きっとまたすぐに秋が過ぎていって、冬になって春が来て夏が来て、また秋が来る。けれど今までとは絶対に違う。穏やかなだけの日々より、もっとずっと幸せな毎日になる。そんな気が確かにしていた。