「もう、つむぎくんなんか知らない!」

 と、声を荒らげてしまった日から一週間。忙しいだろうに仕事の合間を縫って送られてくる彼からの連絡をとことん無視し続け、もう一週間が経ってしまった。

 喧嘩、というには一方的だった。彼が怒ることなんてそうそうないのだけれど、私は朝から晩まであくせく働く彼を見てもう感情を抑えることができなかった。

もっと自分を大切にしてほしい、もっとプライベートも充実させてほしい、という心配と不満を彼に訴えかけたところ、やはりいつものように笑って「大丈夫ですよ〜」なんて返されてしまったのだ。

何度繰り返しても取り合ってくれないもどかしさに、つい思ってもいないことを言ってしまった。

 けれどいつまでも意地を張っているわけにもいかないし、私だって別に彼を嫌いになったわけではない。というわけで、今日は一週間ぶりに彼に連絡をしてみることにした。

『返事しなくてごめんなさい。今度、会って話せる?』



 ――と。メッセージを送ってまたしても一週間が経った。既読はついているけれど返信がない。忙しいからだろうか、いやこれまではどんなに忙しくても必ず何かしら返信だけはしてくれていた。つむぎくんに何かあった……のなら逆先くんから連絡があるだろうし、考えられるとしたら、私に愛想を尽かして無視していることくらいだ。

 どうしよう、怒らせてしまったかもしれない。呆れられて、面倒だと思われてしまったかもしれない。焦る一方で解決策は何ひとつ思い浮かばず、その晩とうとう彼に電話をかけた。

「はい、もしもし、なまえちゃん? どうかしましたか?」

あっけらかんとしたいつも通りの声色で、彼は電話に出た。やや混乱しながらもまずは謝る。

「あの、つむぎくん、ごめんなさい。一方的に怒って、一週間も無視して……ほんとにごめんなさい、反省してるから、見捨てないで……」
「あぁ、泣かないでください。怒っちゃったのも俺のことを思ってのことでしょう? 見捨てたりしませんよ」

電話越しに耐えられず泣き出すと、穏やかな声でそう言われてしまった。何度か深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

「……でも、連絡、返ってこなかったから……怒らせちゃったかと思って……」
「ふふ、怒ってはないですよ。ただ無視されるのは寂しかったので、ちょっと仕返ししちゃいました。結構しんどいでしょう? 喧嘩になっても、無視だけはやめましょうね、お互い」
「うん……ごめんなさい」
「いえいえ、俺も大人げなかったです。ごめんなさい。……大人げないついでに、なんですけど、今からお家に行っても良いですか? 今仕事を片付けたところなんです。……久しぶりにちゃんと顔が見たくて」

 つむぎくんはちょっと照れくさそうにそう言って笑った。私は二つ返事で了承して、電話を切るとすぐに部屋を片付け簡単に身なりを整えた。そしてしばらくしてから、インターホンが鳴った。パタパタと小走りで玄関へ向かい、ドアを開ける。

「こんばんは」
「つむぎくん、」

久しぶりに彼を見ると、また喉の奥が熱くなって涙がこぼれそうになる。彼はそれを知ってか知らずか、玄関に入るとすぐに私をやさしく抱き締めてくれた。