「ン、なんだこれ」

ふと、手に当たったのはタバコの箱だった。キッチンで洗い物をしている恋人の後ろ姿を見て、タバコの箱を手に取る。

 よくコンビニで売っているような、何の変哲もないただのタバコだ。封は開けられていて、中身は……全部で十本ある。てことは、二本吸っちまってるらしい。気まぐれで買ったんだろうか。

というかいつからあるんだ。付き合い始めてもう半年になるが、あいつがタバコを吸ってるところなんか見たこともね〜し、そういう匂いがしたこともね〜んだ。

「晃牙? どうしたの?」
「おう……いや、これ。タバコ吸うのかよ?」

パタパタとキッチンから戻ってくると、なまえは当然のように俺の隣に腰を下ろす。それから俺が差し出したタバコの箱を見て、ちょっと誤魔化すように笑った。

「いやぁ、吸わないよ。苦いし」
「じゃあなんだよコレは?」
「ん〜……ちょっと、吸ってみたかっただけ。晃牙は……吸わないか。喉に悪いもんね。もう捨てちゃおっか」
「もったいね〜な、吸わね〜のに買うなよ」

 なまえはほとんど買ったままのタバコの箱を俺から受け取る。それから手もとの箱を見て、恥ずかしいのかなんなのかいまいちよくわからね〜顔で笑った。

「……ごめん、嘘。買ってないし吸ってない。実はね……前の彼氏が置いてったやつなの、これ」
「は?」
「あ、でも本当に捨て忘れちゃってただけだよ。どこにあったの?」
「…………ベッドの下、そこ」
「あ〜、掃除してないとこだ」

絶対ウソだろ、と、思いはしたが言わなかった。二本だけ減ってんのも、別れてからか別れる前かは知らね〜けど自分で吸ったんじゃね〜のか。

……というか、思えば当たり前なんだが、この狭いアパートに上がり込んでんのも、肩が触れるくらい近くに座り合うのもキスしたりすんのも、全部俺以外の誰かが前にやってんだよな。

 と、余計なことを考えると腹がムカムカしてきた。タバコを捨てようと立ち上がりかけたところを、咄嗟に手首を掴んで引き止め、そのまま床に押し倒した。

「晃牙」
「別にお前が今まで誰と付き合ってようが、俺様はど〜でもいいんだけどよ」
「うん……」
「…………今はちゃんと俺様だけ見てろよな」

そう言って首筋に噛み付いてみると、予想とは反対に笑って頭を撫でられた。でもその笑顔が幸せそうだったから、まァ、今日くらいは撫でられてやってもいいかと肩の力を抜いた。

「心配しなくても晃牙しか見えてないよ」
「ったりめ〜だ」

フン、と笑ってがぶりと噛み付くようにキスをしてから、視界の端にあったタバコをゴミ箱に投げ捨ててやった。ざま〜みやがれ。