およそ一ヶ月ぶりに、恋人とオフが重なった。せっかくだから遠出でもしようと約束し、ずっとその日を楽しみに毎日がんばっていたのだけれど、当日になって熱を出してしまった。

 けれど熱はそれほど高くないし、多少無理をしてでも紅郎くんに会いたかったから、熱のことは言わずに待ち合わせ場所へ向かった。なんとなく頭がふわふわして関節も痛むけれど、それでもどうしても彼に会いたかった。

「おう、悪ぃな、待たせちまったか」
「あ、紅郎くん。おはよ、全然待ってないよ」

へらりと笑って彼を見上げると、彼は少し怪訝な顔をする。そして眉間に皺を寄せてずいと顔を近づけ、私の額に触れた。大きな手のひらが冷たくて気持ちいい。

「お前……熱あんだろ」
「えっと、そうかな」

私がぎこちなく誤魔化すと、紅郎くんは長くため息をついた。呆れているのか怒っているのかはわからなかった。

「とりあえず帰るぞ、近いから俺の家でいいな」
「まって、でも今日、一緒にお出かけしたくて」
「そういう我儘は元気なときに言え。今日は聞いてやらねぇからな」
「ごめんなさい……」

 結局、彼に手をひかれ、そこまで遠くない彼のひとり暮らしのアパートにタクシーで連行されてしまった。担がれるように寝室のベッドに運ばれる。布団をかけられると、紅郎くんの匂いに包まれるような心地がしてつい笑ってしまった。

「なに笑ってんだ、ったくよ……」
「今日、ほんとに紅郎くんに会いたかったから……ごめんね」
「……まぁしばらく会えてなかったからな。だけどよ、調子が悪ぃなら素直に言ってくれ。それでもお前さんが会いてぇって言うなら俺がそっちの家に行ってやるくらいできるんだからな」

紅郎くんは子どもに言い聞かせる母親のように、或いは妹に言い聞かせるお兄ちゃんのようにそう話して、私の頭を撫でる。私はその手に擦り寄り黙って頷いた。

「食欲は? 粥くらいなら食えるか?」
「うん……ううん、今はいい、いいから、ここにいて」
「おう」

 ベッドから手を出すと、紅郎くんは力強く手を握ってくれた。熱が上がってきたのか、段々意識が朦朧としてくる。身体は熱くて節々もやっぱり痛いけれど、不思議と気分は悪くなかった。

「紅郎くん、紅郎くん」
「どうした?」
「へへ、大好き」
「……俺も同じように思ってるってことも忘れねぇでくれよ」

うん、と小さく返事をして、ゆっくり目を瞑る。本当は久しぶりにいろんな所へ行って美味しいものを食べたり遊んだりしたかった。でもこうして隣にいられるだけでも、充分すぎるほど幸せに感じられた。

 熱が下がったら改めてちゃんと謝って、それから次のデートの約束もしよう。手のひらに伝わる彼の体温を感じながら、気づけば私はすっかり眠ってしまっていた。