道ばたでセミが死んでいた。空を見上げるともうそこに綿あめみたいな入道雲はなくて、いつもより沈むのが早くなった太陽が真っ赤に燃え尽きていくのだけが見えた。

 ふと、公園の方から幼子の泣き声が聞こえた。母親に抱き上げられあやされている姿を見て、なぜだか私まで喉の奥が熱くなった。

「元気な幼子じゃのう。黄昏泣き、というやつじゃな」

私がぼんやりと泣いている子どもを見ていると、手を繋いでいた恋人が私の視線を追ってそう言った。私は彼には視線を寄越さず、ちいさく口を開く。

「黄昏泣き?」
「うむ。理由もなく泣いてしまうそうじゃ。まぁ恐らく本人には何かしら思うところがあるんじゃろうけど、中々伝わりにくいので理由もなく泣いてしまう、と言われておる」
「……それは、つらいね」
「そうじゃのう、しかし黄昏泣きをするのは数ヶ月らしいからの、少しの辛抱じゃ」

 はた、と気がついて彼を振り返る。夕焼けみたいな紅い瞳を見て、私はちょっと誤魔化すように笑った。笑わないと、うっかり涙がこぼれてしまいそうだった。

「ううん、そうじゃなくて、赤ちゃんのほう」
「ほう?」
「言葉にならなくて泣いちゃっても、誰にも伝わんないんだね」

笑っていようと思ったのに、気がつくと視界が滲んで、隠す間もなく涙がこぼれ落ちてしまった。何か言い訳をしようとも思ったけれど、やっぱり丁度いい言葉は出てこなかった。

「……伝わらずとも、こうして寄り添うことはできるからのう。それでは不満かや?」
「ん、ううん、っごめん……」

零は、ちょうど母親が子どもをあやすような優しい手つきで私の頭を撫でてくれた。

「大丈夫じゃよ、また夏は巡りくる。なにも終わりはしない」

心を見透かすように、彼は穏やかな声色で私にそう言い聞かせた。

 ひぐらしのないている声がする。夏が終わっていく。あっという間に過ぎ去ってしまう。私は目の前の優しい体温にすがりついたまま、しばらく言葉になりきれない涙をこぼし、死んでいくセミたちを悼んだ。