もしものときは
仕事からの帰り道、突然電話が鳴った。電話の主は最近好意を寄せている相手だったので、珍しいとは思いつつ浮ついた気分で電話をとった。が、聞こえてきたのは彼女の声ではなかった。
「みょうじさんのご友人の方ですか?」
「え……あぁ、はい。そうですが」
ハキハキとした男性の声は、彼女のスマホから事の顛末を簡単に教えてくれた。どうやら電話の主は救急隊員で、彼女は今道端で倒れてしまったところを救急搬送されて病院にいるらしい。
一瞬肝が冷えたが、特に怪我もなく今は落ち着いているとのことで、迎えに来てくれる知人として俺が選ばれたようだ。
すぐ向かいますと返事をして、タクシーを拾い彼女がいるらしい病院へ向かう。一体なにがどうしたのかは詳しく聞きたいところではあるが、ともかく無事なら良かった。
……ついでに言うと、こういう有事の際に自分の名前が浮かんでくれたことについても不謹慎ながら嬉しく思う。一応彼女の連絡先にメッセージだけ送っておいたが、返信はなかった。
病院に着くと、看護師に案内され彼女のもとへ連れて行かれた。ベッドで横たわっていた彼女は、俺を見ると少し不器用に笑った。
「朔間さん、ごめんね、急に呼び出しちゃって」
「……いや、大丈夫じゃよ。体調はどうなんじゃ」
「急に倒れちゃったからたんこぶできちゃった。まだ頭痛もあるけど、割と平気だよ」
「まったく……。心配させないでおくれ、おぬしに何かあったらなど、想像すらしたくない」
そっと頭を撫でると、彼女は目線を逸らして曖昧に笑う。うん、と小さく頷いたのを見て、脇に置いていた彼女の荷物を持つ。
「立てるかや?」
「うん……っとと、」
ベッドから足を下ろして立ち上がった彼女が、立ちくらみのせいか微かによろける。咄嗟に受け止めるが、その軽さと身体の頼りなさに少し驚いた。
「……無理はせんでよいが、歩けるかや?」
「う……んん、ごめん、ちょっと」
「よし、おいで」
背を向けてしゃがみこみ、背中に乗るよう促す。彼女は少し迷ってから、控えめに俺の背中に体を預けた。ついてくれていた看護師さんやらに挨拶をして病室を出る。
「…………あの、いきなり呼んでごめんね」
「それはさっきも聞いたぞい。まぁ倒れるなどということは二度としてほしくないが、こういう咄嗟のときに我輩の名前を思い出してくれたのは光栄じゃのう」
「うん……朔間さんなら来てくれるかなって思った、っていうか、頭痛くて吐きそうで苦しかったから、朔間さんに会いたかったの」
表情は見えないまま、なまえはぽつりとそう言った。
……今のは、なんというか、友人にしては随分その……際どい言葉選びではなかっただろうか。ごくりと生唾を飲み込み、彼女を背負い直して口を開く。
「それは、仲のいい友人として……ということかの?」
「どうだろう。そう聞こえた?」
「そう聞こえなかったから訊ねておるんじゃよ」
「……うん、そうだよね」
病院前に停まっていたタクシーをつかまえ、彼女を後部座席に座らせる。奥に詰めさせて隣に座り、運転手に自宅の住所を告げた。隣にある彼女の冷たい手をそっと握る。
「答え合わせは家に着いてから、ゆっくりさせてもらおうかの」
窓の外を流れてゆくいつもと変わらない街並みを見送りながら、事も無げにそう言った。彼女はわずかに俺の手を握り返し、タクシーのエンジン音に掻き消されそうなほどのか細い声で、「うん」とひとこと頷いてくれた。
「みょうじさんのご友人の方ですか?」
「え……あぁ、はい。そうですが」
ハキハキとした男性の声は、彼女のスマホから事の顛末を簡単に教えてくれた。どうやら電話の主は救急隊員で、彼女は今道端で倒れてしまったところを救急搬送されて病院にいるらしい。
一瞬肝が冷えたが、特に怪我もなく今は落ち着いているとのことで、迎えに来てくれる知人として俺が選ばれたようだ。
すぐ向かいますと返事をして、タクシーを拾い彼女がいるらしい病院へ向かう。一体なにがどうしたのかは詳しく聞きたいところではあるが、ともかく無事なら良かった。
……ついでに言うと、こういう有事の際に自分の名前が浮かんでくれたことについても不謹慎ながら嬉しく思う。一応彼女の連絡先にメッセージだけ送っておいたが、返信はなかった。
病院に着くと、看護師に案内され彼女のもとへ連れて行かれた。ベッドで横たわっていた彼女は、俺を見ると少し不器用に笑った。
「朔間さん、ごめんね、急に呼び出しちゃって」
「……いや、大丈夫じゃよ。体調はどうなんじゃ」
「急に倒れちゃったからたんこぶできちゃった。まだ頭痛もあるけど、割と平気だよ」
「まったく……。心配させないでおくれ、おぬしに何かあったらなど、想像すらしたくない」
そっと頭を撫でると、彼女は目線を逸らして曖昧に笑う。うん、と小さく頷いたのを見て、脇に置いていた彼女の荷物を持つ。
「立てるかや?」
「うん……っとと、」
ベッドから足を下ろして立ち上がった彼女が、立ちくらみのせいか微かによろける。咄嗟に受け止めるが、その軽さと身体の頼りなさに少し驚いた。
「……無理はせんでよいが、歩けるかや?」
「う……んん、ごめん、ちょっと」
「よし、おいで」
背を向けてしゃがみこみ、背中に乗るよう促す。彼女は少し迷ってから、控えめに俺の背中に体を預けた。ついてくれていた看護師さんやらに挨拶をして病室を出る。
「…………あの、いきなり呼んでごめんね」
「それはさっきも聞いたぞい。まぁ倒れるなどということは二度としてほしくないが、こういう咄嗟のときに我輩の名前を思い出してくれたのは光栄じゃのう」
「うん……朔間さんなら来てくれるかなって思った、っていうか、頭痛くて吐きそうで苦しかったから、朔間さんに会いたかったの」
表情は見えないまま、なまえはぽつりとそう言った。
……今のは、なんというか、友人にしては随分その……際どい言葉選びではなかっただろうか。ごくりと生唾を飲み込み、彼女を背負い直して口を開く。
「それは、仲のいい友人として……ということかの?」
「どうだろう。そう聞こえた?」
「そう聞こえなかったから訊ねておるんじゃよ」
「……うん、そうだよね」
病院前に停まっていたタクシーをつかまえ、彼女を後部座席に座らせる。奥に詰めさせて隣に座り、運転手に自宅の住所を告げた。隣にある彼女の冷たい手をそっと握る。
「答え合わせは家に着いてから、ゆっくりさせてもらおうかの」
窓の外を流れてゆくいつもと変わらない街並みを見送りながら、事も無げにそう言った。彼女はわずかに俺の手を握り返し、タクシーのエンジン音に掻き消されそうなほどのか細い声で、「うん」とひとこと頷いてくれた。