窓をうつ雨音が、秒針の呼吸と混じりあって狭い部屋を埋めつくしていた。昼間開けておいた窓から少し冷たい風が吹き込む。俺がそそくさと窓を閉め、カーテンをひくと、なまえちゃんはちょこんとソファの隅っこに腰を下ろした。

 何か飲む? ――とか、暑くない? とか、何か当たり障りのないことを言おうとして、やっぱりやめた。ごくりと唾を呑み込み、こぶし一つ分くらいの距離をあけてなまえちゃんの隣に座る。なまえちゃんはまだぼんやりしているみたいで、綺麗な髪の隙間から赤くなった小ぶりな耳がちらりと見えていた。

「……雨、すごいね」
「ん……うん」

俺は恐る恐る、ソファのうえに置いた手をなまえちゃんのほうに寄せて、同じくソファのうえに放り出された彼女の手の、小指の端に触れた。すると、彼女の細い小指が、戸惑いながらも俺の小指を握った。

 雨音も時計の秒針の音もわからないほど、自分の心臓の音がうるさい。俺たちはしばらく、純粋な学生みたいに指先だけを絡めたまま黙り込んでいた。

 ――そもそもどうして彼女が俺の家にいるのかというと、なまえちゃんが少し悪酔いしてしまったうえに雨も激しくなってきて……なんていくらでも言い訳はできるけれど、結局のところ俺がもう少し一緒に居たかったからってだけだ。遠回しに家に来るかどうか聞いてみたら、ぽやぽやした瞳で見つめられて無言でこくりと頷かれて今に至る。

「かおるくん」
「んぇっ!?」

突然下の名前で呼ばれたせいで、つい変な声が出た。今まで何度言っても「羽風さん」の一点張りだったのに、今は甘い砂糖水みたいな声で、俺の名前を呼んでくれている。

「……かおるくん……薫くん、」
「えぇっと……どうしたの?」

 やっぱり小指だけは繋いだまま、じわりと手のひらを汗で濡らしながらもなまえちゃんの横顔を覗き込んだ。彼女はふっと顔を上げると、頬を真っ赤にしたままへらりと笑った。

「ずっと、薫くんって呼びたかったの。やっと言えた」

ぐ、っと心臓を鷲掴みにされる。思わず空いていたほうの手で胸もとを抑えてしまった。ひと呼吸おいて、なまえちゃんの顔を見つめ返す。

「やっと言ってくれて、俺も嬉しいよ」
「ん……薫くん、」

 甘い囁きと一緒になまえちゃんの熱い手が俺の頬に触れる。あ、と反応しきるより先に、柔らかいものが唇に当たった。

「……ふふ、奪っちゃった」

なまえちゃんはニコニコと嬉しそうに笑って、俺の肩に抱き着いた。俺は反射的になぜだか両手を上げて彼女に触れないようにしてしまったけれど、しばらく固まったままでいると、すやすやと穏やかな寝息が聞こえてきた。

「……う、奪われちゃった〜……」

 触れるだけの優しいキスをしただけでこんなに取り乱すなんて本当に情けない。起こしちゃわないようにそっと、ギュッとなまえちゃんの細い体を抱き締めて小さく息を吐いた。あーあ、もう今夜は眠れないな。