とけちゃう
待ち合わせはショッピングモールが近くにあって繁華街にも繋がっている駅の前で、時間は午前十一時。会ったら最初にランチを食べて、そのあとショッピングモールで買い物をしたら繁華街を歩いて、良い時間になったら夕ご飯も済ませて、解散――というのが大まかな今日のスケジュールだ。とはいえ、藍良くんが「当日は全部俺に任せて!」と言っていたから、どこに行くのか具体的なところまでは知らない。
少し緊張しつつ、遅れないよう十五分前くらいに駅前に着くと、もう着いていたらしい藍良くんが私を見つけて手を振ってきた。小走りで駆け寄り、前髪を気にしながら声をかける。
「おはよう。ごめんね、待たせちゃった?」
「ううんっ、俺が早く来ちゃっただけだから気にしないで! えっと、……」
藍良くんはちょっとぎこちない調子で目を泳がせたあと、照れつつ私のほうに視線を戻した。
「今日の服、っていうか髪型もだけど、す〜っごいラブいよォ……何かすごいドキドキしちゃう」
そう言う彼のほうがずっといじらしくって可愛い、とは思うけれど、今日のために色々と気合を入れて準備をしてきたのも事実で、慣れないながらもこうして褒めてもらえるのは素直に嬉しかった。はにかみ笑って「ありがとう」とお礼を言うと、なんだかお互い照れてしまって変な間が生まれてしまった。
「あ……藍良くんも今日すごくかっこいいし可愛いね」
「ほんと? 良かったァ、変じゃないかなってずっと不安だったんだよねェ」
「変じゃないよ、全然。かっこいいから緊張しちゃう」
「……う〜、ビシッとカッコイイこと言いたいのにニヤけちゃうよォ〜……」
白い頬を桃色に染めて恥ずかしがる様子は本当に可愛い。私が藍良くんの様子を見てニコニコ笑っていると、彼は意を決して私の手を取った。熱い手のひらはぎこちなく私の手を包む。その指や筋が思っているよりずっと男の子らしくて、ドキッと心臓が跳ねてしまった。
「今日は絶対キュンってさせるから、覚悟しておいてよねェ」
「……うん」
もうキュンってしちゃった、とは言えなかった。手を引かれてふたりで並んで歩きだす。
手を繋いで一緒に歩いているだけで、いつもより空が明るく綺麗に見えた。もう随分すずしい季節なのになんだか暑い。藍良くんの手はちょっとだけ震えていた。ちらりと彼の横顔を覗き見ると、ぱちりと目が合う。お互いどこか気恥ずかしくて、また誤魔化すように笑いあった。
胸のうちを白い羽でくすぐられているような感覚だった。むずむずするような嬉しいような、不思議で甘い感覚。藍良くんが事前に調べてくれていたおしゃれなカフェやお店を回っていくと、次第に緊張もほぐれていった。手を繋ぐのにも、まだドキドキはしちゃうけどちょっとは慣れた気がする。
ふたりではしゃいで色んなところを回っていたらあっという間に日が沈んで、夕ご飯にとふたりでオムライス屋さんに入った。
「……なんか、昨日の夜とか今朝とかすっごい緊張してたし不安だったんだけど、考えすぎだったかも」
「うん、私も今日すごい楽しかった」
テーブルを挟んで向かい合って、満足感と幸福感とほんの少しの疲労感に浸りながら会話をする。
「ホントはさ、多分、俺は一緒にふたりで歩いてるだけでも幸せなんだよねェ。もちろん今日みたいにしっかりデートするのも楽しいけど、そんなにガチガチに緊張したり不安にならなくても、一緒だったら絶対楽しいし幸せだもん」
「……うん。私も、藍良くんとだったらなんにもしなくても幸せかも。次はお家デートにする?」
「えっ、それはちょっと、今日とは違う感じで緊張しそうだよォ……!?」
「あはは、私は藍良くんに会えるならどこでもいいよ」
そっと、テーブルの上に置かれた彼の手に触れる。指先を絡めると、藍良くんは耳まで真っ赤になって小さくうなずいた。
「うん、……うん、ありがと。じゃあ早めにまたデートしようね」
「うん!」
何をしてても何を食べてもどうせ藍良くんとなら十二分に幸せなんだろう、なんてきっと初めからわかっていたはずなのに、お互いちょっと背伸びをしすぎちゃったみたいだ。ご飯を終えてお店を出たら、すっかり夜になった街を歩いて駅へ向かう。駅に着いたらお互い反対方向だから、そこでお別れだ。
「寮……ってさ、門限とかあるの……?」
「……う、ううん。門限はない、よ」
「そっか。そうなんだ……」
じゃあもうちょっとだけ、とは流石に言えなくて口をつぐむ。何も言わない代わりに繋いでいた手を握り直すと、藍良くんは私の手を引いてぎゅうっと抱き寄せてくれた。
「も〜っそんな顔しないでよォ! 帰りたくなくなっちゃうじゃん!」
「う、ごめん……」
「……このまま本気で帰しちゃいたくないくらいには、好きだよ。でも、ちゃんと帰してあげたい……帰してあげなきゃって思うくらいにも、好きだから。今日はお互い、ちゃんと帰ろ」
藍良くんは自分にも言い聞かせるみたいに、ゆっくりとそう言った。私は彼の背中に手を回して抱き返し、寂しいけれど素直にうなずく。
「帰ったら、また連絡してもいい?」
「うん! 待ってる」
「……わがまま言っちゃってごめんね。今日、楽しかったから……ありがと」
身体を少し離してから、彼のほっぺたにキスをした。藍良くんがぽかんとしている間に、逃げるように改札を抜ける。
「あっ、ちょっとォ! ずるくない!?」
「ずるくない! またね、ばいばい!」
真っ赤になった藍良くんに大きく手を振って、そのまま電車に飛び乗った。ああでもしないときっとなんだかんだ帰るのを延ばし延ばしにしてしまいそうだった。熱くなる頬に手を当てて電車の中でため息をつくと、藍良くんからメッセージが届いた。
『次会ったときは覚悟しててよ!』
怒ったみたいな絵文字付きの文面を見て、ひとりで口もとをゆるめる。家に着くまでに溶けてなくなっちゃうかも、なんて馬鹿なことを考えるくらい、頭のなかは甘くとろけて幸せに浸っていた。電車の窓から見える夜の街並みはやっぱりいつもよりきらきら輝いて見えた。
少し緊張しつつ、遅れないよう十五分前くらいに駅前に着くと、もう着いていたらしい藍良くんが私を見つけて手を振ってきた。小走りで駆け寄り、前髪を気にしながら声をかける。
「おはよう。ごめんね、待たせちゃった?」
「ううんっ、俺が早く来ちゃっただけだから気にしないで! えっと、……」
藍良くんはちょっとぎこちない調子で目を泳がせたあと、照れつつ私のほうに視線を戻した。
「今日の服、っていうか髪型もだけど、す〜っごいラブいよォ……何かすごいドキドキしちゃう」
そう言う彼のほうがずっといじらしくって可愛い、とは思うけれど、今日のために色々と気合を入れて準備をしてきたのも事実で、慣れないながらもこうして褒めてもらえるのは素直に嬉しかった。はにかみ笑って「ありがとう」とお礼を言うと、なんだかお互い照れてしまって変な間が生まれてしまった。
「あ……藍良くんも今日すごくかっこいいし可愛いね」
「ほんと? 良かったァ、変じゃないかなってずっと不安だったんだよねェ」
「変じゃないよ、全然。かっこいいから緊張しちゃう」
「……う〜、ビシッとカッコイイこと言いたいのにニヤけちゃうよォ〜……」
白い頬を桃色に染めて恥ずかしがる様子は本当に可愛い。私が藍良くんの様子を見てニコニコ笑っていると、彼は意を決して私の手を取った。熱い手のひらはぎこちなく私の手を包む。その指や筋が思っているよりずっと男の子らしくて、ドキッと心臓が跳ねてしまった。
「今日は絶対キュンってさせるから、覚悟しておいてよねェ」
「……うん」
もうキュンってしちゃった、とは言えなかった。手を引かれてふたりで並んで歩きだす。
手を繋いで一緒に歩いているだけで、いつもより空が明るく綺麗に見えた。もう随分すずしい季節なのになんだか暑い。藍良くんの手はちょっとだけ震えていた。ちらりと彼の横顔を覗き見ると、ぱちりと目が合う。お互いどこか気恥ずかしくて、また誤魔化すように笑いあった。
胸のうちを白い羽でくすぐられているような感覚だった。むずむずするような嬉しいような、不思議で甘い感覚。藍良くんが事前に調べてくれていたおしゃれなカフェやお店を回っていくと、次第に緊張もほぐれていった。手を繋ぐのにも、まだドキドキはしちゃうけどちょっとは慣れた気がする。
ふたりではしゃいで色んなところを回っていたらあっという間に日が沈んで、夕ご飯にとふたりでオムライス屋さんに入った。
「……なんか、昨日の夜とか今朝とかすっごい緊張してたし不安だったんだけど、考えすぎだったかも」
「うん、私も今日すごい楽しかった」
テーブルを挟んで向かい合って、満足感と幸福感とほんの少しの疲労感に浸りながら会話をする。
「ホントはさ、多分、俺は一緒にふたりで歩いてるだけでも幸せなんだよねェ。もちろん今日みたいにしっかりデートするのも楽しいけど、そんなにガチガチに緊張したり不安にならなくても、一緒だったら絶対楽しいし幸せだもん」
「……うん。私も、藍良くんとだったらなんにもしなくても幸せかも。次はお家デートにする?」
「えっ、それはちょっと、今日とは違う感じで緊張しそうだよォ……!?」
「あはは、私は藍良くんに会えるならどこでもいいよ」
そっと、テーブルの上に置かれた彼の手に触れる。指先を絡めると、藍良くんは耳まで真っ赤になって小さくうなずいた。
「うん、……うん、ありがと。じゃあ早めにまたデートしようね」
「うん!」
何をしてても何を食べてもどうせ藍良くんとなら十二分に幸せなんだろう、なんてきっと初めからわかっていたはずなのに、お互いちょっと背伸びをしすぎちゃったみたいだ。ご飯を終えてお店を出たら、すっかり夜になった街を歩いて駅へ向かう。駅に着いたらお互い反対方向だから、そこでお別れだ。
「寮……ってさ、門限とかあるの……?」
「……う、ううん。門限はない、よ」
「そっか。そうなんだ……」
じゃあもうちょっとだけ、とは流石に言えなくて口をつぐむ。何も言わない代わりに繋いでいた手を握り直すと、藍良くんは私の手を引いてぎゅうっと抱き寄せてくれた。
「も〜っそんな顔しないでよォ! 帰りたくなくなっちゃうじゃん!」
「う、ごめん……」
「……このまま本気で帰しちゃいたくないくらいには、好きだよ。でも、ちゃんと帰してあげたい……帰してあげなきゃって思うくらいにも、好きだから。今日はお互い、ちゃんと帰ろ」
藍良くんは自分にも言い聞かせるみたいに、ゆっくりとそう言った。私は彼の背中に手を回して抱き返し、寂しいけれど素直にうなずく。
「帰ったら、また連絡してもいい?」
「うん! 待ってる」
「……わがまま言っちゃってごめんね。今日、楽しかったから……ありがと」
身体を少し離してから、彼のほっぺたにキスをした。藍良くんがぽかんとしている間に、逃げるように改札を抜ける。
「あっ、ちょっとォ! ずるくない!?」
「ずるくない! またね、ばいばい!」
真っ赤になった藍良くんに大きく手を振って、そのまま電車に飛び乗った。ああでもしないときっとなんだかんだ帰るのを延ばし延ばしにしてしまいそうだった。熱くなる頬に手を当てて電車の中でため息をつくと、藍良くんからメッセージが届いた。
『次会ったときは覚悟しててよ!』
怒ったみたいな絵文字付きの文面を見て、ひとりで口もとをゆるめる。家に着くまでに溶けてなくなっちゃうかも、なんて馬鹿なことを考えるくらい、頭のなかは甘くとろけて幸せに浸っていた。電車の窓から見える夜の街並みはやっぱりいつもよりきらきら輝いて見えた。