ピンポン、とチャイムが鳴って目が覚めた。あくびをしながら起き上がりモニターを覗くと、マフラーに口もとを埋めた恋人が立っていた。

「えっ、な、今日何か約束しておったっけ?」

慌てて応答ボタンを押して話しかけると、なまえは恥ずかしそうに笑いながら手に持っている紙袋を見えるように掲げた。

「いきなりごめんね、近くに寄ったから来ちゃった」
「う、うむ……とりあえず上がっておいで」

エントランスを解錠してやると、彼女は笑って中に入った。彼女があがってくるまでに慌てて身なりを整える。鏡を見ると寝癖もひどいうえに髭までうっすら生えてきていた。幻滅されたくない一心でかつてないほど急いで準備をすると、玄関のインターホンが鳴った。髪は諦めて梳かすだけ梳かしゴムで縛ってしまった。

「うぐぐ……よし!」

 バタバタと玄関に向かいドアを開ける。彼女は鼻先を赤くしたまま、俺を見るなり雪が溶けるみたいに笑った。

「やっほー、はいこれお土産」
「ありがとう。寒かったじゃろ、ほれ、早くお入り」
「うん」

彼女を迎え入れ、紙袋を受け取る。そのとき、彼女が背伸びをしてハグをしてきた。冷えきったコートに手を回して抱きしめようとすると、首筋にヒヤリと冷たい手が当てられる。

「うおぉっ!? い、っいきなり何をするんじゃ!」
「えへへ、冷たいでしょ〜。今日手袋忘れちゃって」
「まったく……」

 一度身体を離し、彼女がブーツを脱いだのを確認してから彼女の膝裏と肩に手を回し抱き上げた。

「そんないたずらをする悪い子にはお仕置が必要じゃな」
「待って待って、その紙袋がお詫びの代わりだから冤罪だよ!」
「冤罪ではないじゃろ。何を持ってきたのじゃ?」
「えっと、ケーキ……」

彼女をこたつの前で下ろしてやり、紙袋はこたつの上に置いた。彼女のコートをあずかってハンガーにかけてから、一度キッチンに向かい皿とフォークを持って戻ってくる。それからもぞもぞとこたつに入った彼女を後ろから包むように抱きしめつつ、自分もこたつに入った。

「ぐえ、狭い」
「お仕置じゃから♪」

 紙袋からケーキを取り出し、皿に移して早速フォークを立てる。ひとくち分を取って彼女に差し出すと、彼女は素直にぱくりとケーキを口にした。

「いたずらができぬよう、手を暖めねばならんからのう」
「お仕置かなぁ、いつも通り甘やかされてるだけな気がするけど」
「ならくすぐったりしたほうが良いかの?」
「いいっ、いらない!」

後ろから彼女の腹に片腕を回し、まだ冷たい頭に頬ずりする。ケーキを食べさせるのも餌付けをしているようで愉悦感を感じられた。

 ケーキを半分くらい食べさせたところで、彼女が顔を上げて俺のほうを見た。目が合うと彼女はたいそう嬉しそうに笑う。

「冬はこうやってくっつけるから大好き」
「またそうやって可愛いことを……もう今日は離してやらんからの」

白い首すじに唇を当てて温もりを分け合う。もういっそ、年がら年中ずっと冬が続けばいいのに。そうすれば暖かい家の中でこうして彼女を独占していられるのに……と、まだやや寝惚けたままの頭でそんなことを考えた。