我慢
(俺零です)
「ねー、零」
彼女の俺を呼ぶ声は、どこかしら、しかし決定的にいつもと違っていた。幼い子どもが甘えるときのようにも聞こえるし、寧ろ大人の女性が誘惑するときのようにも聞こえる。
珍しく家に呼ばれたので行ってみたところ、様子のおかしい彼女に部屋に通されてしまった。流れでベッドの縁に座ってしまったことを少し後悔していると、彼女はわざわざ部屋のドアに鍵をかけてから例の調子で俺を呼んだのだった。俺が顔を上げて彼女を見ると、彼女は無遠慮に俺に抱き着き、膝の上に跨った。
「キスしていい?」
「……おう」
「やったぁ」
「なぁお前」
彼女は俺の言葉の続きを待たずに唇に噛みつく。触れた唇も、絡めた舌も、やはり溶けそうなほどに熱い。抱き寄せて額に手のひらを当てるといつもより熱い温度が伝わってきた。
「やっぱ風邪か。お前が自分から誘うなんて絶対ね〜もんな」
「零の手、冷たくて気持ちいいね。もっと触ってよ」
「そういうのは元気なときに言ってほしいンだけどな」
「うん……? 元気だよ!」
ふわふわした口調で、彼女は満面の笑みを浮かべる。優しく頭を撫でてやりながらぼんやり思考を巡らせた。
別に襲ってしまってもいいのではないか、いや熱があるのに無理をさせて悪化させるのは良くないだろう。しかし彼女はかつてないほど甘えた目でこちらを見ている。この機会を逃していいものか……据え膳食わぬはなんとやらと言うことだし……などと長考していたら、彼女がしびれをきらして俺をベッドに押し倒した。
「なんでなんにもしてくれないの? いっつも嫌って言ってもするくせに、ずるい」
「普段俺が無理やりしてるみて〜な言い方すんなよ。病人相手に無茶していいのか悩んでる最中なんだよ零ちゃんは」
「病人じゃないもん」
「あ〜そうだな、先に熱測るか。微熱なら一回くらい大丈夫だろ」
彼女を退かせて起き上がり、ちょうどペン立てにさしてあった体温計を取った。やはり不満げな顔をしている彼女に体温を測らせてみると、熱は三十八度を越していた。
「……流石にこれはダメだな。おし、寝るぞ」
「えぇ、なんでよ! 風邪ひいてる恋人にはさ、看病とか注射とかなんとか言ってえっちするもんなんじゃないの」
「また偏った知識だな……今そんなことしたらお前は絶対に吐くし悪化するだろ。だからしね〜よ」
「零は……零は私とえっちしたくないの?」
無理やりベッドに寝かせて布団を被せる。彼女が俺の手を掴んで引っ張るので、ため息をついてくしゃくしゃと髪を撫でてやった。
「したいかしたくないかで言えば、そりゃしたいに決まってんだろ。お前のためを思って珍しく自制してやってんだからもっと感謝しろよ」
「…………じゃあもう一回キスして」
「うつるだろ〜がよ……まァお前が甲斐甲斐しく看病してくれるんならいいぜ」
彼女の頭の横に手をついてねだられるままにキスをしてやると、彼女は俺の首に腕をからめる。つい体勢を崩しもつれ込むようにベッドに引き込まれてしまった。
「子守唄うたって、撫でて」
「わかったわかった」
布団にもぐりこみ、彼女を抱き寄せて背中の辺りを撫でる。小さく子守唄をうたってやると、彼女は案外すぐに眠ってしまった。いつもより熱い額にキスをして俺も目を瞑る。熱が早く下がることを祈るばかりだ、……本当に。
「ねー、零」
彼女の俺を呼ぶ声は、どこかしら、しかし決定的にいつもと違っていた。幼い子どもが甘えるときのようにも聞こえるし、寧ろ大人の女性が誘惑するときのようにも聞こえる。
珍しく家に呼ばれたので行ってみたところ、様子のおかしい彼女に部屋に通されてしまった。流れでベッドの縁に座ってしまったことを少し後悔していると、彼女はわざわざ部屋のドアに鍵をかけてから例の調子で俺を呼んだのだった。俺が顔を上げて彼女を見ると、彼女は無遠慮に俺に抱き着き、膝の上に跨った。
「キスしていい?」
「……おう」
「やったぁ」
「なぁお前」
彼女は俺の言葉の続きを待たずに唇に噛みつく。触れた唇も、絡めた舌も、やはり溶けそうなほどに熱い。抱き寄せて額に手のひらを当てるといつもより熱い温度が伝わってきた。
「やっぱ風邪か。お前が自分から誘うなんて絶対ね〜もんな」
「零の手、冷たくて気持ちいいね。もっと触ってよ」
「そういうのは元気なときに言ってほしいンだけどな」
「うん……? 元気だよ!」
ふわふわした口調で、彼女は満面の笑みを浮かべる。優しく頭を撫でてやりながらぼんやり思考を巡らせた。
別に襲ってしまってもいいのではないか、いや熱があるのに無理をさせて悪化させるのは良くないだろう。しかし彼女はかつてないほど甘えた目でこちらを見ている。この機会を逃していいものか……据え膳食わぬはなんとやらと言うことだし……などと長考していたら、彼女がしびれをきらして俺をベッドに押し倒した。
「なんでなんにもしてくれないの? いっつも嫌って言ってもするくせに、ずるい」
「普段俺が無理やりしてるみて〜な言い方すんなよ。病人相手に無茶していいのか悩んでる最中なんだよ零ちゃんは」
「病人じゃないもん」
「あ〜そうだな、先に熱測るか。微熱なら一回くらい大丈夫だろ」
彼女を退かせて起き上がり、ちょうどペン立てにさしてあった体温計を取った。やはり不満げな顔をしている彼女に体温を測らせてみると、熱は三十八度を越していた。
「……流石にこれはダメだな。おし、寝るぞ」
「えぇ、なんでよ! 風邪ひいてる恋人にはさ、看病とか注射とかなんとか言ってえっちするもんなんじゃないの」
「また偏った知識だな……今そんなことしたらお前は絶対に吐くし悪化するだろ。だからしね〜よ」
「零は……零は私とえっちしたくないの?」
無理やりベッドに寝かせて布団を被せる。彼女が俺の手を掴んで引っ張るので、ため息をついてくしゃくしゃと髪を撫でてやった。
「したいかしたくないかで言えば、そりゃしたいに決まってんだろ。お前のためを思って珍しく自制してやってんだからもっと感謝しろよ」
「…………じゃあもう一回キスして」
「うつるだろ〜がよ……まァお前が甲斐甲斐しく看病してくれるんならいいぜ」
彼女の頭の横に手をついてねだられるままにキスをしてやると、彼女は俺の首に腕をからめる。つい体勢を崩しもつれ込むようにベッドに引き込まれてしまった。
「子守唄うたって、撫でて」
「わかったわかった」
布団にもぐりこみ、彼女を抱き寄せて背中の辺りを撫でる。小さく子守唄をうたってやると、彼女は案外すぐに眠ってしまった。いつもより熱い額にキスをして俺も目を瞑る。熱が早く下がることを祈るばかりだ、……本当に。