家に帰ると、真っ先にお出汁のいい匂いがする。ドアを閉めて靴を脱ぎ、玄関に上がれば、音に気付いてキッチンから彼女が顔を覗かせた。

「つむぎくん。おかえり」
「……はい、ただいまです」

彼女はにこにこと可愛らしく笑って俺を迎えてくれた。同棲を初めてもう随分経つけれど、彼女の幸せそうな顔は何回見ても胸が温かくなるものだ。

 エプロンをしてお味噌汁を温めている彼女に後ろから近づいて、お腹の辺りに腕をまわし、抱きしめる。細い首筋に顔を埋めるとやさしい香りがした。彼女はくすくす笑いながら、俺の髪を片手で撫でる。

「つむぎくん、甘えんぼさんなのはいいけど、眼鏡歪んじゃうよ」
「ええ、でも、もう少しだけ……お味噌汁ができあがるまで」
「もうできちゃうよ」

彼女はそう言ってコンロの火を消した。少しだけ顔を上げてみると、お味噌汁も、お鍋に入った肉じゃがも、もう完成してしまったようだった。

「……じゃあ本当にあとちょっとだけ、お願いします」
「もう、しょうがないなぁ。つむぎくんのお腹が鳴るまでならいいよ」
「本当ですか? やったぁ、じゃあお腹の虫が鳴かないようにしないとですね」

 そう言いながら、後ろから彼女の首筋に何度もキスをする。彼女はくすぐったそうにしつつも、お腹に回した俺の腕に触れてじっと受け入れてくれていた。

あと少し、あと少し……と思いながらお腹が鳴らないよう力を入れていたけれど、やっぱり目の前に美味しそうなごはんがあればお腹は当然空くもので、とうとうきゅるきゅると大きめの音が鳴ってしまった。

「優秀なタイマーだね」
「うぅ、残念です……」

大人しく腕を外せば、彼女は振り向いて少し背伸びをし、一瞬挨拶のようなキスをした。俺の頬を軽く撫でて、やさしい笑顔を浮かべる。

「夕ご飯が済んだら、また甘やかしてあげる。お皿取って」
「はぁい」

 食器棚からお茶碗やお皿を取って彼女に渡す、そのとき、仕返しのように彼女にキスをしてみた。彼女は食器を一旦置いて、子どもをあやすように俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。

 こんなふうにひとに甘えたりするなんて、今までずっと思ってもみなかったのに。一度甘えることを知ってしまってからは、彼女の前ではずっとこんな調子で、本当はほんのちょっぴり気はずかしい。

それでも彼女がきまってやさしく受け入れてくれるものだから、多分きっとこれからも、彼女の前では甘えん坊になっちゃうんだろうな、と思う。