珍しく二日連続でオフを抑えられたから、と、一彩くんは週末、私の家へ泊まりに来てくれた。

何にも特別なことをしていなくたって、いつもは一人だけの空間に一彩くんがいるだけで何となく心が軽くなる。一緒にご飯を食べたあと、私はソファに腰掛ける一彩くんに後ろから近づき、少し迷ってから彼の隣にちょこんと腰を下ろした。

「どうかしたのかな?」
「ん……いや、うん、なんにもないよ」

無垢な瞳で見つめられるとその手に触れることも憚られる。狭いソファに並べば肩が触れそうになるのに、なんだか、あと数ミリの距離をうまく詰められない。

 私が黙ってなんにも言わないでいると、一彩くんはいまいち考えの読めない瞳で私のほうをジッと見つめた。

「一彩くん、あの、そんなに見られると……」
「あぁ、すまない。なまえが何を望んでいるのか、観察すればわかるかもしれないと思って」
「……私?」
「ウム! ドラマの仕事をするうちに少しずつだけどわかるようになってきたんだ。男性が相手の意図を汲み取ってエスコートをすると、女性は満足感を得られるんだよね?」

何となく堅苦しい言い回しで説明されると、言わんとすることはわかるのになんだか実際のところと齟齬があるような気がする。私は少し考え込んでから、意を決して一彩くんの手に触れ、恋人繋ぎの形で手を繋いだ。

「エスコートしてほしいっていうより、私は、一彩くんにこうして触れてたい……です」

急に恥ずかしくなってぎこちなくそう伝えると、一彩くんは少しの間ぽかんとしたあと、心底嬉しそうに元気よく笑った。

「そうだね、僕もなまえに触れているとすごく幸せな気分になるよ! でもどうしてだろう、なまえから触れてもらうのと、僕から触れるのとではまた少し気持ちが違うような気がするよ」

 一彩くんはそう言いながら、優しく包み込むように私を抱き締めてくれた。確かに、自分から触れるのと触れられるのとでは、どちらも幸せなことに変わりはないけれどどこかが違う。

普段はどうしても気恥ずかしくて私から触れられないけれど、一彩くんが触れられるのを嬉しいと思うのならもう少し甘え上手になるべきなのかもしれない。

「……一彩くん、あのね」
「うん?」
「えっと…………今日、貴重なお休みなのに泊まってくれるのすごく嬉しい。ありがとうね、大好きだよ」

改めて言葉にしながら彼の背中に手を回した。控えめに首もとへ頭を擦り寄せて甘えてみると、一彩くんはぎゅうっと私を抱き締める手に力を込めた。

「どうしよう、すごく嬉しいよ……! こちらこそ時間をくれてありがとう、愛しているよ」
「ひ、一彩くん……苦しい、」
「あっ、す、すまない」

 一彩くんは力を抜いて体を離し、幸せそうな眼差しを私に向けた。体や心のなかにある幸せや嬉しさや愛おしさが、ちっとも言葉になってくれなくてもどかしい。言葉だけじゃなく、態度や行動でさえ表し尽くせない気がした。

……でもそういう歯がゆさやもどかしさも全部含めて、一彩くんと一緒にいる時間は何よりも愛おしいと――今は心からそう思う。