デスクいっぱいになってしまったお菓子を見て、ふぅ、と幸せな溜め息をつく。今日はハロウィンだからと行く先々で色んな人にお菓子を貰ってしまった。貰うばかりであげる機会もなかったせいで、気がつくとお菓子でデスクがいっぱいになってしまった。どうやって持って帰ろうかと腕を組んで考え込んでいると、突然肩をトントンと叩かれた。振り向くと、人さし指がぷにっとほっぺにささる。

「……朔間さん」
「くく、悪戯成功じゃ♪ 今から帰りかや?」

後ろに立っていた朔間さんは、私の頬をつつくと無邪気に笑って首を傾げた。そういえば今日彼の姿を見たのはこれが初めてかもしれない。

「はい、でもお菓子いっぱいになっちゃって……朔間さん、紙袋とか持ってたりしませんか?」
「んん、なるほど。ちょうど良い感じの紙袋がこの辺りに……あったあった、ほれ、使うが良い」

朔間さんはゴソゴソと戸棚から紙袋を取り出し、私に差し出した。ありがたくそれを受け取ってお菓子を袋へ入れていると、不意に後ろから、背中越しにデスクに手を付かれる。デスクと朔間さんの間に挟まれて振り向くこともできずにいると、彼は後ろから私の耳もとに囁きかけた。

「……今日は随分、人気者だったようじゃな?」
「ひゃ、っ……えと、っていうよりは皆さん、沢山お菓子を持っていらしてたみたいで……」
「ほう? これなぞわざわざ宛名付きじゃけど?」
「…………そんなの、朔間さんのほうがよっぽど貰ってるでしょ」

 手を止めて、努めていつもと変わらないように軽く笑いながら返事をする。と、朔間さんは人目がないのをいいことに後ろから耳に齧り付いた。

「きゃっ」
「前から思っておったんじゃけど、おぬし警戒心が薄くないかえ? その菓子のなかに何か……異物が入っている可能性も否めぬじゃろうに」
「そんなこと……」
「今だって叫んで突き飛ばしてでも逃げるべきなのではないかえ? そう心を許されると食べてもいいと言われておるようで抑えが効かなくなるんじゃけど」

低い声が優しく耳を蹂躙する。ここまでされても突き飛ばして逃げようとしない理由くらい、察してほしいものだ。脈拍を乱して返答に迷っていると、彼の手が恐る恐る私の頬に触れた。

「朔間さん、」
「……なんじゃ」
「人が来るかも、しれないので」
「それだけが理由かや?」

もどかしい問答を交わして、ようやく私が立ち上がって振り返った。思いのほか近い距離にばくんと心臓が一際大きく高鳴ったけれど、何とか平気なフリをしてみせた。

「それだけって言ったらどうするんですか」
「…………今宵は帰してやれぬのう」

 少し顔を俯けて視線を外して、聞こえるか聞こえないか、曖昧な音量で返事をする。

「別に良いですよ……帰れなくても」
「……ほんとに?」

朔間さんは間の抜けた声でうっすら赤らんだ頬のまま、私を真っ直ぐ見据えた。黙ってこくんと頷くと、彼は私の手首を掴んだ。

「うむ、ならありがたくいただいちゃおうかの♪」

 沢山貰ったお菓子は紙袋に詰めたけれど、結局その日のうちにはひとつも食べられずじまいだった。

朔間さんの考えていることはいまいちわからなかったけれど、もしかすると私が色んな人にお菓子をもらったのが気に食わなかった……というだけなのかもしれない。そう思うとなんだか、あんなにかっこいい人が今は可愛らしく思えるのだった。