言い訳
アルコールというものは本当に便利なもので、もちろん完全に無害ではないが節度さえもっていれば適度に思考を鈍らせ気分を軽くしてくれる。それとは別に、酒の席となると普段は隠している本音や本性みたいなものを出してしまうことが許される。いやむしろそういうものを曝け出すための場として設けられることが多い。
だから俺が彼女を飲みに誘ったのも、究極的に言えば彼女の普段隠している本音を暴いてみたかったからなのだ。
「う…………、だめ、ごめんなさい、ちょっと……」
「えっ? えっ、大丈夫かや? お手洗い行ける?」
が、彼女はチューハイ一杯飲みきらないうちに顔を真っ赤にして、早々にトイレへ向かった。席を立った彼女があまりにもふらふらと覚束無い足取りなので不安になって支えてやると、彼女は渋い顔で俺を見上げたあと、ちょっとだけ笑って見せた。
「お酒、……お酒弱いんですよね、はぁ、飲まなきゃ良かった…………」
「うむ、吐きそうなのかや?」
「んん……、」
「まぁ転けたりせんように。足もとには気をつけておくれ」
一応トイレの前まで着いて行ってやって、彼女が出てくるとまた体を支えて席まで戻った。水を注文して彼女の前に出してみるが、彼女はぼんやりしたまま動かない。
「ん〜と……あんまり辛いようなら、今日はもうお開きにするかえ?」
「ん……、ううん……」
「でもしんどいんじゃろ?」
「しんどくない、げんき」
ふわふわと上手く呂律の回らないような調子だった。テーブルに突っ伏してしまった彼女を見てこれ以上は良くないと判断し、彼女の反対も聞かず店員さんにチェックを頼んだ。
「朔間さん、おさけ……強いんですね」
「まぁ少なくともおぬしよりはのう。ほれ、お水を飲んだらもう帰ろう」
「ん……」
大人しく水を飲ませてさっさと店を後にする。結局、滞在時間はほんの一時間程度だった。タクシーを探しつつ、彼女が転ばないようしっかりと腕を掴んでいると、不意に彼女のほうから俺の腕にすがりついてきた。
「……朔間さん、あの、私……」
「うん?」
「おさけ……好きじゃないです、頭ふわふわしちゃうし、体も熱くなるし、美味しくないし」
「む……それは、誘ってしまってすまんかったのう」
吐くぐらいはするだろうかと心配しながら彼女を見つめる。彼女はやはり変わらず真っ赤な顔で、ちょっとぶっきらぼうに口をとがらせた。
「そうじゃなくて……それでも、お酒、のんだらちょっとはなんか、いい感じになるかなって……朔間さんだから、いい感じになったらいいなって……? 思って、」
「いい感じに」
喋れば喋るほど、彼女のなかで何かがほどけていくように思えた。彼女から与えられる言葉の続きが待ち遠しくて、無意識に歩みを止め、彼女のほうをじっと見つめる。
「……か、帰れないな〜……って、なるかなって」
「…………」
にへ、と顔をあげて笑う彼女を見て、思わず顔を背ける。そして空いた方の手で自分の顔を覆い、かつてないほど深く溜め息をついた。勿論彼女の思惑を面倒がったとか嫌気がさしたとかではなく、ただ衝動的に込み上げた薄汚い欲望を落ち着かせようという一心からだった。
「うぅむ、残念じゃけど、もう帰せなくなっちゃったのう」
「……ふふ、やった」
きゅ、と腕に抱きつきながら、彼女はいたずらが成功した子どもみたいに笑った。
――まぁ結局、連れ込んだホテルで彼女は朝まで爆睡してしまったのだが。
だから俺が彼女を飲みに誘ったのも、究極的に言えば彼女の普段隠している本音を暴いてみたかったからなのだ。
「う…………、だめ、ごめんなさい、ちょっと……」
「えっ? えっ、大丈夫かや? お手洗い行ける?」
が、彼女はチューハイ一杯飲みきらないうちに顔を真っ赤にして、早々にトイレへ向かった。席を立った彼女があまりにもふらふらと覚束無い足取りなので不安になって支えてやると、彼女は渋い顔で俺を見上げたあと、ちょっとだけ笑って見せた。
「お酒、……お酒弱いんですよね、はぁ、飲まなきゃ良かった…………」
「うむ、吐きそうなのかや?」
「んん……、」
「まぁ転けたりせんように。足もとには気をつけておくれ」
一応トイレの前まで着いて行ってやって、彼女が出てくるとまた体を支えて席まで戻った。水を注文して彼女の前に出してみるが、彼女はぼんやりしたまま動かない。
「ん〜と……あんまり辛いようなら、今日はもうお開きにするかえ?」
「ん……、ううん……」
「でもしんどいんじゃろ?」
「しんどくない、げんき」
ふわふわと上手く呂律の回らないような調子だった。テーブルに突っ伏してしまった彼女を見てこれ以上は良くないと判断し、彼女の反対も聞かず店員さんにチェックを頼んだ。
「朔間さん、おさけ……強いんですね」
「まぁ少なくともおぬしよりはのう。ほれ、お水を飲んだらもう帰ろう」
「ん……」
大人しく水を飲ませてさっさと店を後にする。結局、滞在時間はほんの一時間程度だった。タクシーを探しつつ、彼女が転ばないようしっかりと腕を掴んでいると、不意に彼女のほうから俺の腕にすがりついてきた。
「……朔間さん、あの、私……」
「うん?」
「おさけ……好きじゃないです、頭ふわふわしちゃうし、体も熱くなるし、美味しくないし」
「む……それは、誘ってしまってすまんかったのう」
吐くぐらいはするだろうかと心配しながら彼女を見つめる。彼女はやはり変わらず真っ赤な顔で、ちょっとぶっきらぼうに口をとがらせた。
「そうじゃなくて……それでも、お酒、のんだらちょっとはなんか、いい感じになるかなって……朔間さんだから、いい感じになったらいいなって……? 思って、」
「いい感じに」
喋れば喋るほど、彼女のなかで何かがほどけていくように思えた。彼女から与えられる言葉の続きが待ち遠しくて、無意識に歩みを止め、彼女のほうをじっと見つめる。
「……か、帰れないな〜……って、なるかなって」
「…………」
にへ、と顔をあげて笑う彼女を見て、思わず顔を背ける。そして空いた方の手で自分の顔を覆い、かつてないほど深く溜め息をついた。勿論彼女の思惑を面倒がったとか嫌気がさしたとかではなく、ただ衝動的に込み上げた薄汚い欲望を落ち着かせようという一心からだった。
「うぅむ、残念じゃけど、もう帰せなくなっちゃったのう」
「……ふふ、やった」
きゅ、と腕に抱きつきながら、彼女はいたずらが成功した子どもみたいに笑った。
――まぁ結局、連れ込んだホテルで彼女は朝まで爆睡してしまったのだが。