テーブルのうえ、ちょこんと座る可愛いぬいぐるみ。それは恋人が所属する事務所が最近出した、本人を模したぬいぐるみだった。そっと小さな胴の部分を手に取って、まじまじと色んな角度から観察する。実際の彼はこんなに可愛くないけれど、特徴はよく捉えていると思う。

「……っふふ、可愛い。ごほん。朔間零じゃよ〜、我輩ぬいぐるみになっちゃったのじゃ〜♪」

似てない声真似でぬいぐるみの短い手足を動かしながらアテレコをして遊ぶ。一緒に凛月くんか羽風さんのぬいぐるみも買えば良かったなぁと後悔しつつ遊んでいると、ぬっ、と後ろから手が伸びてきた。

「な〜にを可愛いことをしておるんじゃ」
「わっ、零。え、ぁ、いつの間に帰ったの……? えっいつから見てたの!?」

 いつの間にやら帰ってきていた零は、後ろからぬいぐるみをひょいを取り上げた。さっきの恥ずかしいひとり遊びをまさか見られていたのかと私が真っ赤になっていると、彼は愉快そうにクスクス笑った。

「くく、朔間零じゃよ〜、我輩ぬいぐるみになっちゃったのじゃ♪」
「うわムカつく、最初からじゃん!」
「すまんすまん。というかおぬし、ぬいぐるみとか好きじゃったっけ?」
「いや別に……零のだったから欲しいなって思って、買っちゃった」

振り向き、ちょっと恥ずかしさを誤魔化すように視線を逸らして髪の先を指でいじる。零はにやつきながら私の前にしゃがみこんで顔を覗き込んできた。

「えい♡」
「んむ、」

零は両手で持った自分のぬいぐるみの口もとを私の口に当てて、自分もそのぬいぐるみにキスをした。とてもじゃないが成人男性のすることではない。ないのに、顔が整っているというただそれだけでなんだかさまになるような気がした。

「……自分のぬいぐるみにキスするのは、なんか……違うくない?」
「ほう? ならばどこにすべきなのか教えておくれ」
「…………意地悪」
「何のことやら」

 笑いながら、零はテーブルにぬいぐるみを置いて私の頬に触れた。そうして今度は布じゃない柔らかな感触が唇に触れ、そのまま床に押し倒される。

「ねぇ待って、ご飯まだでしょ」
「ご飯かお風呂かおぬしか、と言われたら今はおぬしを先にいただきたいんじゃけど」
「え〜やだぁ……」
「やだじゃないじゃろ、あんなにかわゆいことをしておったおぬしが悪いんじゃし」

零の手が優しく私の頭を撫でる。こういうとき、結局いつもいつも「別にいいけど」って許してしまう。実際、本気で嫌なわけじゃないから別に構わないんだけど。それもこれもぬいぐるみよりずっと綺麗な彼の顔立ちのせい……だけではないけれど。

 そんなふうにどう言い訳をつけたって、つまるところ惚れた弱みに他ならないのだから。