Presents For You
十二月中旬、ある休日のことだった。俺は居間で洗濯物を畳みながら、昼食の準備をする彼女と何気なく会話を交わしていた。
「そういえば今年、クリスマスあたりはずっと大雪だってねぇ」
「ああ、そうらしいな。交通が止まらなければ良いが……」
「そうだね、サンタさんも困っちゃうもんね」
「ふん、何を言っている」
「え?」
取るに足らない冗談だと思ったそれは、彼女の反応を見るに冗談ではなかったらしい。思わず服を畳む手をとめ、すぐさま色々な可能性を考える。
そして彼女の表情からひとつの結論を導き出した。つまり、彼女はまだサンタの存在を信じているのではないか……と。
「…………サンタクロースは、公共交通機関は使わんだろう」
「あ、そっか。そうだよね、トナカイにソリをひいてもらうんだもんね。あれ、じゃあ大雪の方が良いのかな」
「そうかもしれんな」
正気か、と突っ込みたくて仕方なかったが、彼女の夢を壊すことのほうが恐ろしかった。確かに彼女と同棲を始めたのはちょうど今年の春先だから、彼女は去年まで実家で暮らしていた。となればこの歳まで親が隠し通していたとしてもおかしくない。いやおかしいが、有り得ないことではない。
「……敬人〜、ねぇ聞いてる?」
「あっ、あぁ、どうした? サンタはいるぞ」
「そんなこと聞いてない、コーヒーと紅茶どっちがいい?」
「あぁ……すまない。コーヒーで頼む」
「はぁい」
キッチンの向こう側で、彼女は呑気に鼻唄を歌いながらインスタントコーヒーをいれる。俺は大きく溜め息をつき、ちらりと壁にかかったカレンダーを見た。
――クリスマスに向けて元々プレゼントは用意していた。が、彼女がサンタを信じているともなれば話は別だ。俺からのプレゼントとは別に、「サンタクロースからのプレゼント」が枕元にあるべきだろう。そしてサンタの代わりをつとめることができるのは、今は俺しかいない。となれば俺が彼女のためにできることはひとつだけだ。
そして来る十二月二十四日。イブは生憎仕事もあり帰宅も遅くなったが、音を立てないようそっと寝室に入ると、幸い彼女は既にぐっすり眠っていた。息を殺してベッドに近づき、プレゼントを枕元に置こうとした、その瞬間。
「ん……敬人……?」
「っ! あぁ、すまん。起こしてしまったか」
彼女が眠たげな声を出して、薄らと目を開けたのだ。咄嗟にプレゼントを隠し、何事もないかのように笑ってみせる。彼女は寝惚けているのかふにゃりと赤子のように笑い、すぐに目を瞑ってしまった。
「おかえり……」
「……あぁ。ただいま」
柔らかな髪をそっと撫で、彼女が再び眠りに落ちるのを待った。……しばらくして規則正しい寝息が聞こえるようになると、ホッと胸を撫で下ろし、改めてプレゼントを枕元に置いた。
「メリークリスマス、なまえ。……良い夢を」
少しぎこちなくそう囁いて、また音を立てないように寝室を出る。俺からの正式なプレゼントは明日、彼女が起きてから渡そう。どちらも喜んでくれるといいのだが……、と俺も寝る支度を整えていると、不意に寝室のドアが開いた。
「敬人……?」
「なっ、お、起きたのか」
彼女は俺が先程枕元に置いたプレゼントを持って、寝室から出てきた。彼女が何か言う前に、用意していた俺からのプレゼントを彼女に差し出す。
「ちょうどよかった。クリスマスプレゼントだ、受け取ってくれ」
「えっ、二つも用意してくれたの?」
「は? いや、それはその、……サンタが」
「私のこといくつだと思ってるの……?」
彼女は苦笑しながら、俺の隣に腰を下ろす。俺がいまいち彼女の話を理解出来ずにいると、彼女は「あっ」と声を漏らした。
「そいえば前、サンタ信じてますアピールしちゃったような……? ごめん、冗談だったんだけど言い忘れちゃってた」
「……貴様」
「えっ、わ、ごめんなさい! ふふっ、だって本気にすると思わなくて……!」
「はぁ……まったく度し難い……」
がっくりと肩を落とすと、彼女はプレゼントを一度脇へ置いて俺の頭を優しく撫でた。ちらりと彼女を見れば、思っていたより嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
「ふふ、ありがとね、嬉しいよ」
「……なら良い」
彼女の幸せそうな笑顔ひとつでこうして許してしまうあたり、己の弱さを痛感させられる。言葉にして調子に乗られるのは目に見えているからわざわざ言ったりはしないが、それでも恐らく彼女には何となく察されているのだろう。……不甲斐ないことだが。
「そういえば今年、クリスマスあたりはずっと大雪だってねぇ」
「ああ、そうらしいな。交通が止まらなければ良いが……」
「そうだね、サンタさんも困っちゃうもんね」
「ふん、何を言っている」
「え?」
取るに足らない冗談だと思ったそれは、彼女の反応を見るに冗談ではなかったらしい。思わず服を畳む手をとめ、すぐさま色々な可能性を考える。
そして彼女の表情からひとつの結論を導き出した。つまり、彼女はまだサンタの存在を信じているのではないか……と。
「…………サンタクロースは、公共交通機関は使わんだろう」
「あ、そっか。そうだよね、トナカイにソリをひいてもらうんだもんね。あれ、じゃあ大雪の方が良いのかな」
「そうかもしれんな」
正気か、と突っ込みたくて仕方なかったが、彼女の夢を壊すことのほうが恐ろしかった。確かに彼女と同棲を始めたのはちょうど今年の春先だから、彼女は去年まで実家で暮らしていた。となればこの歳まで親が隠し通していたとしてもおかしくない。いやおかしいが、有り得ないことではない。
「……敬人〜、ねぇ聞いてる?」
「あっ、あぁ、どうした? サンタはいるぞ」
「そんなこと聞いてない、コーヒーと紅茶どっちがいい?」
「あぁ……すまない。コーヒーで頼む」
「はぁい」
キッチンの向こう側で、彼女は呑気に鼻唄を歌いながらインスタントコーヒーをいれる。俺は大きく溜め息をつき、ちらりと壁にかかったカレンダーを見た。
――クリスマスに向けて元々プレゼントは用意していた。が、彼女がサンタを信じているともなれば話は別だ。俺からのプレゼントとは別に、「サンタクロースからのプレゼント」が枕元にあるべきだろう。そしてサンタの代わりをつとめることができるのは、今は俺しかいない。となれば俺が彼女のためにできることはひとつだけだ。
そして来る十二月二十四日。イブは生憎仕事もあり帰宅も遅くなったが、音を立てないようそっと寝室に入ると、幸い彼女は既にぐっすり眠っていた。息を殺してベッドに近づき、プレゼントを枕元に置こうとした、その瞬間。
「ん……敬人……?」
「っ! あぁ、すまん。起こしてしまったか」
彼女が眠たげな声を出して、薄らと目を開けたのだ。咄嗟にプレゼントを隠し、何事もないかのように笑ってみせる。彼女は寝惚けているのかふにゃりと赤子のように笑い、すぐに目を瞑ってしまった。
「おかえり……」
「……あぁ。ただいま」
柔らかな髪をそっと撫で、彼女が再び眠りに落ちるのを待った。……しばらくして規則正しい寝息が聞こえるようになると、ホッと胸を撫で下ろし、改めてプレゼントを枕元に置いた。
「メリークリスマス、なまえ。……良い夢を」
少しぎこちなくそう囁いて、また音を立てないように寝室を出る。俺からの正式なプレゼントは明日、彼女が起きてから渡そう。どちらも喜んでくれるといいのだが……、と俺も寝る支度を整えていると、不意に寝室のドアが開いた。
「敬人……?」
「なっ、お、起きたのか」
彼女は俺が先程枕元に置いたプレゼントを持って、寝室から出てきた。彼女が何か言う前に、用意していた俺からのプレゼントを彼女に差し出す。
「ちょうどよかった。クリスマスプレゼントだ、受け取ってくれ」
「えっ、二つも用意してくれたの?」
「は? いや、それはその、……サンタが」
「私のこといくつだと思ってるの……?」
彼女は苦笑しながら、俺の隣に腰を下ろす。俺がいまいち彼女の話を理解出来ずにいると、彼女は「あっ」と声を漏らした。
「そいえば前、サンタ信じてますアピールしちゃったような……? ごめん、冗談だったんだけど言い忘れちゃってた」
「……貴様」
「えっ、わ、ごめんなさい! ふふっ、だって本気にすると思わなくて……!」
「はぁ……まったく度し難い……」
がっくりと肩を落とすと、彼女はプレゼントを一度脇へ置いて俺の頭を優しく撫でた。ちらりと彼女を見れば、思っていたより嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
「ふふ、ありがとね、嬉しいよ」
「……なら良い」
彼女の幸せそうな笑顔ひとつでこうして許してしまうあたり、己の弱さを痛感させられる。言葉にして調子に乗られるのは目に見えているからわざわざ言ったりはしないが、それでも恐らく彼女には何となく察されているのだろう。……不甲斐ないことだが。