後悔先に立たず、という言葉をこれほど身に染みて感じたことが今まであっただろうか。私は化粧室の鏡と睨めっこしながら、さっき美容室で切ってもらったばかりの自分の髪を何度も何度も指先でいじくっていた。

髪を切ろうと思い立ったのは昨日の深夜、酔ったまま酒の勢いで美容室を予約して、結局そのまま一度も冷静にならず髪をバッサリ切ってしまった。

それだけならまだしも、自分に似合うのかも考えず、あろうことかこれから会う恋人と似た髪型にしてしまったのだ。本当にどうして一度でも我に返らなかったのだろう。なんて、今更どう悔やんでも遅いのだが。

『もうすぐ着くぞい』

ふと、彼から連絡が入る。時間を確認するともう待ち合わせの五分前だった。ここから待ち合わせ場所までは目と鼻の先だけど、どんな顔で彼に会えば良いのかがわからない。

見慣れないヘアスタイルだからなのかはわからないけれど、鏡にうつる私はなんとも違和感が漂っているのだ。彼に会ってもし「なんじゃそれ」みたいなことを言われたらもう丸坊主にするしかない。

 しかしいくら悩んでいても、ここにはバリカンも帽子もない。手櫛で程々に髪を整え、断腸の思いで化粧室を出て待ち合わせ場所へ向かった。

「……っう、……あ〜、零、お待たせ…………」

早くも集合場所に着いていた零を見つけて恐る恐る肩を叩く。零はこちらを振り返ると、真顔のままピシャリと硬直してしまった。

「零……? あ、あのこれ、さっき切ってきたんだけどその……あはは、零とお揃いにしたかったんだけど私全然似合わないや、ごめんね……」

わざわざゆるくパーマを当てた髪を落ち着きなく指先に絡め取りつつ、そろりと彼から目線を外す。すると、思いもよらずガシッと両肩を掴まれた。

「めちゃめちゃかわゆいんじゃけど……!! 我輩とお揃い……!? なんっ……えっ、はァ!?」
「ちょ、ちょっと落ち着いて! なんでちょっとキレてるの!」

 爛々と目を輝かせる零をなんとか宥めて、手を振り払う。零は一度手を離してからもまだしばらくはなんとも形容しがたい表情で私を見つめていた。

「……は〜…………うむ、一周まわって逆に落ち着いてきたぞい」
「なにが一周したのよ。ていうか、あの……変じゃない?」
「へ? いや、まったく、というか雰囲気がこう、何となくエロ、じゃなく大人っぽくなって良いと思うぞい」
「…………そう。そっか、良かった……」

ほ、っと胸を撫で下ろしてそう呟くと、零は上機嫌に私の手を取って距離を縮めてきた。ふわ、と零の柔らかい髪が少しだけ触れる。

「お揃いって仲良しっぽくて良いのう♪」
「っぽい?」
「おっと。そうじゃな、我輩たちはもう仲良し以上の関係じゃった」
「なんか零が言うとなぁ」

くすくす笑いながら彼の手をぎゅっと握り返す。そしてちらりと彼のほうを横目で盗み見て、幸せそうな間抜け面に心から安堵した。

自分では自信がもてなくっても、零が喜んでくれるなら途端に愛おしくなるものだ。ちょろいと言われればそれまでだけれど。