あまえんぼ
朝、私が目を覚ましても彼女はぐっすり眠っておられました。赤ん坊のような寝顔をじいっと見つめ、充分堪能したころ、私は先にベッドから出て朝食の準備を始めました。ゆっくり朝食の準備をしていると、いつもなら匂いにつられて彼女が目を覚ますからです。今日もいつもどおり、彼女の目を覚ますために精いっぱい美味しい香りをつくりました。
――しかし彼女は中々起きてきません。一度朝食にラップをかけて寝室へ様子を見に行くと、やはり彼女はぐっすり眠ったままでした。昨晩は無理をさせてしまいましたから、わざわざ起こすのも少しはばかられます。
私はベッドのふちに腰掛け、そっと指先で彼女の髪を撫でました。優しく髪を撫でつけ、それから、柔らかな頬を人差し指でつんつんつついてみたりもしました。が、それでも彼女は起きません。
「なまえ〜……起きないのですか?」
「……」
声をかけてみても、彼女は寝返りひとつうちません。いっそ起こしてしまいたいような、このまま寝顔を見つめていたいような、なんともむず痒い心地でした。
しかし、私の思いにかかわらず彼女はまだ夢のなかにいるようでしたので、諦めてすごすごと部屋を出て行きました。静かなリビングで、テレビもつけず、出来たての朝食にも手はつけず、私はソファに腰かけぼんやりマジックの仕込みなどをして時間をつぶしていました。
別に、朝食は先に済ませてしまってもかまいません。或いは彼女の隣にもう一度寝そべって、二度寝をしてしまってもなんの問題もありません。ですが今朝はなぜだか心が浮き足立っているせいで、彼女と一刻も早く言葉を交わしたくて仕方なかったのです。
黙り込んで手を動かしていると、不意に、後ろからふわりと体重をかけられました。見れば、彼女の華奢な腕が私の首に巻きついてきています。
「渉、」
「これはこれは、おはようございます! 朝食にしますか?」
いつの間にやら起きてきた彼女は、まだ眠たげな目を擦りながら私をじっと見つめました。私はソファ越しに彼女を振り返り、ようやく見ることのできたその瞳に見入っておりました。
「……渉がいないから…………」
「はい?」
「起きたら、渉がいないから、やだった」
彼女は小さな声でそう言って私の隣に座ると、珍しく甘えるように頭を預けてきました。愛しいつむじを見つめ、その薄い肩をそっと抱き寄せてみます。
「今朝はずいぶん甘えんぼうさんですねぇ」
それは彼女だけに向けた言葉ではありませんでしたが、先程まで眠りこけていた彼女は知る由もないでしょう。彼女をこうして甘やかすことが、私が彼女に甘やかされることと同義なんて……彼女は夢にも思わないのでしょうね。
――しかし彼女は中々起きてきません。一度朝食にラップをかけて寝室へ様子を見に行くと、やはり彼女はぐっすり眠ったままでした。昨晩は無理をさせてしまいましたから、わざわざ起こすのも少しはばかられます。
私はベッドのふちに腰掛け、そっと指先で彼女の髪を撫でました。優しく髪を撫でつけ、それから、柔らかな頬を人差し指でつんつんつついてみたりもしました。が、それでも彼女は起きません。
「なまえ〜……起きないのですか?」
「……」
声をかけてみても、彼女は寝返りひとつうちません。いっそ起こしてしまいたいような、このまま寝顔を見つめていたいような、なんともむず痒い心地でした。
しかし、私の思いにかかわらず彼女はまだ夢のなかにいるようでしたので、諦めてすごすごと部屋を出て行きました。静かなリビングで、テレビもつけず、出来たての朝食にも手はつけず、私はソファに腰かけぼんやりマジックの仕込みなどをして時間をつぶしていました。
別に、朝食は先に済ませてしまってもかまいません。或いは彼女の隣にもう一度寝そべって、二度寝をしてしまってもなんの問題もありません。ですが今朝はなぜだか心が浮き足立っているせいで、彼女と一刻も早く言葉を交わしたくて仕方なかったのです。
黙り込んで手を動かしていると、不意に、後ろからふわりと体重をかけられました。見れば、彼女の華奢な腕が私の首に巻きついてきています。
「渉、」
「これはこれは、おはようございます! 朝食にしますか?」
いつの間にやら起きてきた彼女は、まだ眠たげな目を擦りながら私をじっと見つめました。私はソファ越しに彼女を振り返り、ようやく見ることのできたその瞳に見入っておりました。
「……渉がいないから…………」
「はい?」
「起きたら、渉がいないから、やだった」
彼女は小さな声でそう言って私の隣に座ると、珍しく甘えるように頭を預けてきました。愛しいつむじを見つめ、その薄い肩をそっと抱き寄せてみます。
「今朝はずいぶん甘えんぼうさんですねぇ」
それは彼女だけに向けた言葉ではありませんでしたが、先程まで眠りこけていた彼女は知る由もないでしょう。彼女をこうして甘やかすことが、私が彼女に甘やかされることと同義なんて……彼女は夢にも思わないのでしょうね。