仮面の下は
菫色の瞳をじっと見つめる。そうすれば少しでも彼の内側を垣間見ることができるのではないかと思ったのだ。けれどすぐに、そんなことは叶うはずもないと溜め息をついた。
「おや、ご機嫌ななめですか?」
「ななめ。ななめすぎて、逆に水平になっちゃうくらい」
「それはいけませんねぇ。ではこの日々樹渉が貴女の願いをなんでも一つ叶えてみせましょう! 必ずや貴女の目を輝かせてみせますよ〜」
彼は幼女みたいに無邪気な笑みを浮かべて、首を傾げる。私は腕を組んで思考を巡らせ、叶えてほしいことを思い浮かべてみた。
「……なんでも?」
「ええ、どんな無理難題でも構いませんよ」
「絶対に叶えてくれるの?」
「もちろんです……☆」
私はさながら詐欺を疑う無知な人間のように、用心深く、何度も同じことを彼に問い直した。けれど彼の答えは決して変わらなかった。ぎゅ、と膝の上で拳を固く握りしめ、くちびるを噛んで唾を飲む。少しの沈黙のあと、私はようやく口を開けた。
「…………じゃ、じゃあ、……私のこと、」
愛して、と、言おうとして、口を「あ」の形にしたところで黙り込んでしまった。愛してと強請ってもし彼が本当にそれを叶えてくれたとしても、それは彼が新しい仮面をつけただけにすぎない。
本当はそうじゃなくて、彼に望まれて、彼の仮面の下を覗いてみたいのだ。
「貴女のことを?」
「あ、……ううん、やっぱり無し。えーと、叶えてほしいことでしょ。う〜ん……」
「訂正なさらなくても。貴女の望むまま仰ってくださって構わないのですよ? 私に何をお望みなんです?」
まるで私の心を見透かすような言葉に、思わず目を見開き彼を見つめる。彼の硝子玉のような瞳はただ私を映しこんでいた。見つめていても、私が動揺していることしかわからない。
「い、……言って、私が望んだから叶えてもらうのは、なんか違うと思ったの」
「なるほど? ですが物は試しと言いますし、言葉にしてみてはいかかです? 案外、私も能動的に従うかもしれませんよ」
「能動的に従うって矛盾じゃない?」
「フフ、どうでしょう」
なんだかよくわからなくなってしまって、私はまた腕を組み必死に足りない頭で考え込んだ。けれど今度は、思考を奪うように彼の手が頬に触れたせいで頭が真っ白になってしまった。
「教えてくださいませんか? 貴女が私に求めるものを」
彼の瞳は深海のように深く、やはりどれだけ見つめても彼の心の一片さえ見えそうになかった。かえって吸い込まれてしまいそうなその瞳にとらわれたまま、私はぼう然とくちびるをひらく。
「……好き、になってほしい……私のこと、貴方から」
ぽつりとこぼしてから、自分の言葉が幼稚な告白と同義だと気がついてすぐに撤回しようと息を吸った。けれど、吸った息が声帯を震わせることはなかった。彼は何も言わずに距離を埋め、そっと一瞬触れるだけのキスをしてきたのだ。目の前が薄紫色に染まる。
「困りましたね、元から貴女を慕っていたものですから……もっと無茶を仰ってくださってもよかったのに」
「……え、うそ」
「嘘じゃありませんよ」
「嘘じゃないの……?」
彼は私の目の前で、変わらず無邪気に笑っている。その真意なんてちっともわからないけれど、長い水色の髪の隙間からちらりと見えた耳は真っ赤に染っていた。
「おや、ご機嫌ななめですか?」
「ななめ。ななめすぎて、逆に水平になっちゃうくらい」
「それはいけませんねぇ。ではこの日々樹渉が貴女の願いをなんでも一つ叶えてみせましょう! 必ずや貴女の目を輝かせてみせますよ〜」
彼は幼女みたいに無邪気な笑みを浮かべて、首を傾げる。私は腕を組んで思考を巡らせ、叶えてほしいことを思い浮かべてみた。
「……なんでも?」
「ええ、どんな無理難題でも構いませんよ」
「絶対に叶えてくれるの?」
「もちろんです……☆」
私はさながら詐欺を疑う無知な人間のように、用心深く、何度も同じことを彼に問い直した。けれど彼の答えは決して変わらなかった。ぎゅ、と膝の上で拳を固く握りしめ、くちびるを噛んで唾を飲む。少しの沈黙のあと、私はようやく口を開けた。
「…………じゃ、じゃあ、……私のこと、」
愛して、と、言おうとして、口を「あ」の形にしたところで黙り込んでしまった。愛してと強請ってもし彼が本当にそれを叶えてくれたとしても、それは彼が新しい仮面をつけただけにすぎない。
本当はそうじゃなくて、彼に望まれて、彼の仮面の下を覗いてみたいのだ。
「貴女のことを?」
「あ、……ううん、やっぱり無し。えーと、叶えてほしいことでしょ。う〜ん……」
「訂正なさらなくても。貴女の望むまま仰ってくださって構わないのですよ? 私に何をお望みなんです?」
まるで私の心を見透かすような言葉に、思わず目を見開き彼を見つめる。彼の硝子玉のような瞳はただ私を映しこんでいた。見つめていても、私が動揺していることしかわからない。
「い、……言って、私が望んだから叶えてもらうのは、なんか違うと思ったの」
「なるほど? ですが物は試しと言いますし、言葉にしてみてはいかかです? 案外、私も能動的に従うかもしれませんよ」
「能動的に従うって矛盾じゃない?」
「フフ、どうでしょう」
なんだかよくわからなくなってしまって、私はまた腕を組み必死に足りない頭で考え込んだ。けれど今度は、思考を奪うように彼の手が頬に触れたせいで頭が真っ白になってしまった。
「教えてくださいませんか? 貴女が私に求めるものを」
彼の瞳は深海のように深く、やはりどれだけ見つめても彼の心の一片さえ見えそうになかった。かえって吸い込まれてしまいそうなその瞳にとらわれたまま、私はぼう然とくちびるをひらく。
「……好き、になってほしい……私のこと、貴方から」
ぽつりとこぼしてから、自分の言葉が幼稚な告白と同義だと気がついてすぐに撤回しようと息を吸った。けれど、吸った息が声帯を震わせることはなかった。彼は何も言わずに距離を埋め、そっと一瞬触れるだけのキスをしてきたのだ。目の前が薄紫色に染まる。
「困りましたね、元から貴女を慕っていたものですから……もっと無茶を仰ってくださってもよかったのに」
「……え、うそ」
「嘘じゃありませんよ」
「嘘じゃないの……?」
彼は私の目の前で、変わらず無邪気に笑っている。その真意なんてちっともわからないけれど、長い水色の髪の隙間からちらりと見えた耳は真っ赤に染っていた。