そろそろ帰るよ、と電車の中からメッセージを送る。意外にも既読はすぐについた。そして、彼から愛想のない返信が届く。

『駅から歩き?』
『うん』

そのあと、既読はつくものの返信は来なくなった。どうかしたのかなぁと思いつつ、ぼんやり電車に揺られる。やがて最寄り駅に近付いていくと、雨粒が車窓を叩いた。

(やば……折りたたみ持ってないや)

もったいないけど、コンビニで傘でも買って帰ろうか。タクシーを使うほうがお金がかかるし、バスはどうバス停から家までの道で濡れるだろうし……やっぱりコンビニで買おう、と心のなかで決めたところで、最寄り駅に到着した。

 そして思いもよらず改札口で見つけた、愛しい銀色。私が彼を見つけてもぽかんと立ち止まったままでいると、彼はずんずんと大股で近づいてきた。

「なにボーッとしてんの。ほら、さっさと帰るよ」
「い……泉くん? なんで?」
「アンタのことだからどうせ傘なんか持ってないと思って、わざわざ迎えに来てあげたんだけど?」
「はあ」
「……なに、恋人の心配して迎えに来ちゃ悪いわけ?」

泉くんはそう言いながら、私の手を握って歩き出す。ぶっきらぼうな言い方とは裏腹に彼の手は優しくて暖かかった。

「え、傘……」

迎えに来たくせに、彼は傘を一本しか持っていない。二人で体を寄せあって歩きながら彼の横顔を盗み見れば、彼は心なしか幸せそうに見えた。なんで傘二本持ってないの、と訊くのはきっと野暮すぎるだろう。

「泉くん」
「なに」
「……ありがと、嬉しい」
「ふぅん。ならせいぜい感謝しなよ」

 うん、と答えた私はこっそり隣でクスクス笑っていた。なんて素直じゃないひとなんだろうか、このひとは。それでもその不器用さと案外真っ直ぐな愛が心地いいから、少しくらい肩が濡れても、歩きにくくても、これで十分幸せなのだ。