まーくん、について私は何も知らない。テレビや雑誌でよく見かけはするけれど、実際に会ったことはない。が、恋人が何かにつけて彼の話をするのでひっそり対抗心を燃やしている。

「ねぇねぇ聞いてよ、今日まーくんがさ」
「もう、帰ってきたら最初はただいまでしょ」

夕飯の支度をしながら、帰宅してきた彼に向き直る。凛月くんはわざとらしく拗ねた声を出しながらも、「ただいま」と言ってハグをしてきた。

「それでさ、今日まーくんが紅茶の茶葉差し入れしてくれたんだよね。最近忙しそうだから〜とか言ってさ。まーくんだって忙しいのにね〜、ふふ、後で一緒に飲もうよ」
「いいの? あ、紅茶といえば……今日久しぶりに友達に会ってたんだけど、バレンタイン近いからってチョコもらっちゃったんだよね。それも一緒に食べよっか」

にこ、と彼に笑いかけるが、思いもよらず不機嫌そうな顔をされる。思わず首をかしげると、凛月くんはやはりむすくれたまま口を開いた。

「会ってたってなに、何してたの?」
「何って……カフェでおしゃべりしただけだよ」
「ふーん、俺とは最近全然デートしてないのに。カフェってどこ? 俺と行ったとこ?」
「いや、最近新しくできたとこ……気になってたから」
「なにそれ、俺と行けばいいじゃん」

 凛月くんはくちびるを尖らせて、ぎゅう、と私のお腹あたりを抱き寄せる。そしてそのまま甘えるように肩口に頭を預けてきた。私はそのさらさらの黒髪を撫でてやりながら、ちょっと呆れた声を出す。

「もしかしてやきもちやいてるの? 女の子だよ?」
「そんなの関係ないし、あんたが気になってた店なら俺が一緒に行きたかったし、そもそも俺以外とデートしないでよ」
「デートじゃないけど、うん、まぁ……今度は二人で行こうよ」
「うん」

まだ納得しきっていない声が体に伝わってくる。自分はまーくんの話をこれでもかというほどするくせに、それで私がやきもちをやいていることも知っているくせに、逆は許してもらえないらしい。

 それでも彼のわがままを愛おしく思えてしまうのだから、惚れた弱みというのは相当に厄介だ。