「ほら。あーんして、ね」

 ぼくがそう言って彼女の顎を指先で上向かせると、彼女は少し恥じらってから、けれど従順にその口を小さく開いた。その口に噛みつくように、蓋をするように、パズルのピースをかみ合わせるように、キスをする。

ぼくが彼女の腰を抱き寄せれば、彼女もいつもどおりにぼくの首に腕を回す。深く口づけをするなかで、自分の唾液を彼女に分け与える。

「……ん、く」

 彼女は素直にぼくの唾液を受け入れ、嚥下する。そうしてようやく口を離す。未だに慣れない彼女は少し呼吸を浅くして、頬を赤く染めていた。その赤い頬をそっと指の腹で撫で、慈しむ。

「ちゃんと飲めて偉いね」
「ん……」

頬を撫でていた指を、そのまま輪郭を伝って喉から胸もとまで下ろしてゆく。彼女のなかの管をとおってぼくが彼女の中に溶け込んでいっていると思うとたまらなかった。

「日和くん」
「うん、なぁに?」
「もう一回……」
「……ふふ、よくばりさん。でも一回だけでいいの?」

 もう一度彼女の顎に指を添わせると、彼女はまた素直に顔を上げ、もの欲しげな瞳でぼくを見つめた。彼女は何も言わず、小さく、くちびるを開く。

「良い子」

何度も何度もキスをして、何度も何度も唾液を分け合った。このままお互いの境界が曖昧になってしまったらどんなに幸せだろうか。少しでも愛しい彼女に近づきたくて、距離を縮めたくて、乱暴に彼女の身体を抱き寄せてしまう。

重なり合った胸もとに響く心音だけは、もうどちらのものとも判別できないほど高鳴っていた。