平日の夜、人の少ない時間に水族館を訪れた。奏汰くんと水族館に来るのはなんだかんだ初めてで、私自身としても水族館に来るのは久々だったこともあり、少し浮き足立っていた。

「水族館の水槽って好きだな」

立ち止まった大きな水槽の前で、優雅にふわふわ泳ぐ魚たちを見ながら呟いた。奏汰くんはそっとアクリルに手を添えて、水槽の中を見つめる。

「きれいですね。おさなかさんたちも、のびのびしてます」
「……うん。光が屈折してゆらゆら揺れてるのが、すごく綺麗。魚のうろことかもきらきらして……」

 隣にいる奏汰くんへ視線をうつすと、その蒼い瞳には柔らかな光が反射して淡く揺れていた。まるで海のなかみたいだ、とその瞳に見入っていると、奏汰くんがこちらを見て微笑んだ。

「ふふ、たのしいですね」
「うん」
「むこうにもすいそうがあります」
「ほんとだ。何の水槽だろう」

手を繋ぎ直して奏汰くんが見つけた水槽のほうへ歩く。そこはライトアップされたくらげの展示されている水槽だった。

「くらげ……」
「くらげさんですね。ぷかぷか、きもちよさそうです……♪」
「ふふ、奏汰くん、中に入っちゃダメだよ」
「うう、がまんします……」

 少し残念そうな顔を横目に、たくさんのくらげが浮かぶ幻想的な空間を見つめる。

「……くらげって……海の月って書くんだよね」
「そうですね」
「なんだか不思議、でも確かに水面にうつるお月様みたいかも。……海月、綺麗だね」

私がそう言って奏汰くんを見ると、奏汰くんも私のほうを見て、ふんわり柔らかく笑った。まるで穏やかな朝の海を見ているような気持ちになる。

「いっしょにみると、ひとりでみるよりきれいにみえますね」

 きゅ、とどちらからともなく繋いだ手にほんの少し力を込めて、またふたりで水槽のなかに浮かぶ月を見つめる。ゆるやかな波のように流れていくこの時間が、いつまでも続けばいいとひそやかに願った。