※凜月がガチ吸血鬼
※なんとなくファンタジー




「あ……、またやっちゃった…………」

腕の中でぐったりと力を失くした彼女を見下ろし、溜息をつく。彼女をベッドに横たえ、自分の口周りについた彼女の血を拭った。

彼女の隣に腰掛け、吸血によって死んでしまった彼女の頬を撫でる。これまでも、何人かの女の子をこうして殺してしまった。

「……殺すつもりじゃなかったのにな」

彼女──なまえは、俺が吸血鬼だって知っても馬鹿な顔してそばにいてくれた。人間の女の子に情なんか持ちたくないと思っていたのに、なまえは易々と俺の心に入り込んで来た。

俺が血が足りなくて死にそうになってるのを見て、なまえは迷わず身体を差し出したのだ。本当に、殺したくなんかなかったのに。殺すつもりなんてなかったのに。

「……なかったのにな〜じゃないでしょ」
「あれ?生きてる」

青白い顔のまま、彼女がゆっくり目を開けてこちらを睨みつけた。驚いてつい手を引っ込めると、彼女は緩慢な動きで身体を起こす。ぎりぎり生きていたのだろうか。

「なんで生きてるの?死んじゃったと思ったんだけど」
「死んじゃったじゃなくて貴方が殺したんだけど……私、呪われてるから死ねないんだよね。凜月くんからすれば、血液無限タンク……?」
「言い方……。ふぅん、死なない呪いなんてあるんだ」
「不思議だよねぇ」

突拍子もない話だけど、現に目の前で死んだはずの彼女が生きて動いているのだから、信じるしかない。何より彼女がまたその声を聞かせてくれるのが嬉しくて、思わず隣に座る彼女の身体を強く抱き締めた。

「……生きてて良かった」

自分より弱いものが死んでしまうのは仕方ない、と、彼女の死さえもそうして割り切ろうと、見ないふりをしようとしていた。

いざ振り返って向き合うと、思っていたよりずっと、俺は彼女を失うことを嘆いていたことに気がついた。

「凜月くんがいつまで生きてるか知らないけど、多分、凜月くんより先に死ぬことはないよ。大丈夫、大丈夫」

彼女は赤子に話しかける母親のような穏やかな声で、そう言い聞かせてくれた。

普通、人間は吸血鬼よりずっとずっと早く死んでしまう。そうでなくとも、人間は弱くて脆いから、ちょっとしたことですぐ死んでしまう。

だから遠ざけていたのに、言い訳がもういらないなんて言われたら、心が溢れて止められない。

「約束だよ。ずっと、俺が死んじゃうまでそばにいて」
「……いいよ。ずうっと、嫌になるまでそばにいてあげる」

優しい体温が俺を受け容れる。泣きそうなくらいあたたかい。このまま呪いが解けなければいいんだ。ずっとずっと呪われたまま、ふたりで一緒にいられたらいい。それ以上なんて欲張り言わないから、どうかこのまま幸せを奪わないで。