あなたのもの
鏡を覗き込んで、思わず一人で頬を弛ませる。耳朶にきらりと光る空色のピアスは、英智くんの瞳の色に合わせて買ったものだ。ピアスを開けるのは少し怖かったけれど、きちんと皮膚科で麻酔までかけて処置してもらったお陰でちっとも痛くなかった。
今日はいつもよりメイクも気合いをいれて、ヘアセットも時間をかけながら何とかこなし、何度も鏡の自分とにらめっこする。
というのも、今日はピアスを開けてから初めてのデートなのだ。英智くんに可愛いねとひとこと言ってもらえたらどんなに嬉しいだろうと、そんな淡い期待に胸を踊らせ、いよいよコートを羽織り家を出た。
外は薄く雲がたなびく冬らしい晴れで、待ち合わせの駅前に植えてある梅の木を見れば、もう蕾がふくらみつつあった。何となく浮き足立ったまま辺りを見回して英智くんの姿を探す。すると、予定よりまだ時間があるのに英智くんの姿が遠くに見えた。
私が気づくのとほとんど同時に、英智くんもこちらに気づき軽く手を振る。控えめに手を振り返し、包み隠さず笑顔を浮かべた。
「やぁ。ごめんね、待たせてしまったかな」
「ううん、今来たところだよ、ほんとに」
「そう? なら良いんだけど……あれ」
不意に彼の手が私の横髪に触れる。気づいてくれたのだろうかと大人しく黙っていると、彼は何も言わず、そのまま手を引っ込めて微笑みを浮かべた。
「お腹は空いてる? この前話してたカフェが近くにあるから、君さえ良ければどうかな」
「あ……うん、大丈夫……」
「良かった。じゃあ行こうか」
「うん」
いつも通り手を繋いで、ゆっくり歩き出す。私は今さら自分からピアスのことを申告する気になれず、何となくぎこちなさを胸のうちに残したまま、彼と他愛ない話をした。カフェに着き、向かい合わせでテーブルについても変わらず、ピアスのことは話せなかった。
しかし料理を注文してひと息つくと、不意に、彼が手を伸ばして私の横髪を耳にかけさせた。
「……いつ開けたの?」
「あ……、えっと、先週……病院で開けてきたの」
「そう。良い色だね」
「うん、英智くんの目の色と一緒だと思って」
私がはにかみながらそう言うと、英智くんは一瞬驚いたように目を丸くして、それから少し困ったように笑った。
「ふふ、そっか。実を言うと、君が僕に相談もせず自分の体に傷をつけたのが少し嫌だったんだ」
「ご、ごめんなさい」
「ううん、あくまで君の体は君のものだからね。僕に何かを制限する権利はない。けれど、だからこそそうやって君が自分の体に僕の色をさしてくれたというのは嬉しいな」
「……うん、私は全部、ちゃんと英智くんのだから」
耳もとに触れる彼の綺麗な手にほんの少し擦り寄ってそう言うと、英智くんはまた困ったように、幸せそうに笑った。
「そんなことを簡単に言うものじゃないよ、それも僕相手に」
少し体温の低い彼の手、その親指が優しく私の頬を撫でる。貴方相手だから言っているのだとは、もうわざわざ言葉にはしなかった。
今日はいつもよりメイクも気合いをいれて、ヘアセットも時間をかけながら何とかこなし、何度も鏡の自分とにらめっこする。
というのも、今日はピアスを開けてから初めてのデートなのだ。英智くんに可愛いねとひとこと言ってもらえたらどんなに嬉しいだろうと、そんな淡い期待に胸を踊らせ、いよいよコートを羽織り家を出た。
外は薄く雲がたなびく冬らしい晴れで、待ち合わせの駅前に植えてある梅の木を見れば、もう蕾がふくらみつつあった。何となく浮き足立ったまま辺りを見回して英智くんの姿を探す。すると、予定よりまだ時間があるのに英智くんの姿が遠くに見えた。
私が気づくのとほとんど同時に、英智くんもこちらに気づき軽く手を振る。控えめに手を振り返し、包み隠さず笑顔を浮かべた。
「やぁ。ごめんね、待たせてしまったかな」
「ううん、今来たところだよ、ほんとに」
「そう? なら良いんだけど……あれ」
不意に彼の手が私の横髪に触れる。気づいてくれたのだろうかと大人しく黙っていると、彼は何も言わず、そのまま手を引っ込めて微笑みを浮かべた。
「お腹は空いてる? この前話してたカフェが近くにあるから、君さえ良ければどうかな」
「あ……うん、大丈夫……」
「良かった。じゃあ行こうか」
「うん」
いつも通り手を繋いで、ゆっくり歩き出す。私は今さら自分からピアスのことを申告する気になれず、何となくぎこちなさを胸のうちに残したまま、彼と他愛ない話をした。カフェに着き、向かい合わせでテーブルについても変わらず、ピアスのことは話せなかった。
しかし料理を注文してひと息つくと、不意に、彼が手を伸ばして私の横髪を耳にかけさせた。
「……いつ開けたの?」
「あ……、えっと、先週……病院で開けてきたの」
「そう。良い色だね」
「うん、英智くんの目の色と一緒だと思って」
私がはにかみながらそう言うと、英智くんは一瞬驚いたように目を丸くして、それから少し困ったように笑った。
「ふふ、そっか。実を言うと、君が僕に相談もせず自分の体に傷をつけたのが少し嫌だったんだ」
「ご、ごめんなさい」
「ううん、あくまで君の体は君のものだからね。僕に何かを制限する権利はない。けれど、だからこそそうやって君が自分の体に僕の色をさしてくれたというのは嬉しいな」
「……うん、私は全部、ちゃんと英智くんのだから」
耳もとに触れる彼の綺麗な手にほんの少し擦り寄ってそう言うと、英智くんはまた困ったように、幸せそうに笑った。
「そんなことを簡単に言うものじゃないよ、それも僕相手に」
少し体温の低い彼の手、その親指が優しく私の頬を撫でる。貴方相手だから言っているのだとは、もうわざわざ言葉にはしなかった。