「ちょっと悪いことしない?」

と、誘ったのはほんの出来心だった。忍くんはウンウン唸って悩んだあと、本当に困った表情で声を絞り出した。

「内容によるでござる……!」
「あはは、そうだよね、ごめんごめん。別に大したことじゃないんだけど……夜、一緒に天体観測しない?」
「天体観測、でござるか」
「うん。こっそり屋上行って」

 結局、忍くんは最後まで迷っていたけれど、私が一人でも決行すると言うと一人では危ないからと一緒に来てくれることになった。


 こっそり校内に残り、日が沈みきると二人して見つからないかドキドキしながら屋上に向かった。あらかじめあるツテから入手しておいた屋上への鍵を使ってドアを開けると、ひゅう、と冷たい夜風が首すじをさらっていった。

「わ……」

夜空には思っていたよりたくさんの星々が瞬いていた。そっとドアを閉めて、ふと隣にいる忍くんの方を見る。忍くんは大きな瞳に星の光をきらきらと反射させて、夜空に見入っていた。

「すごい、こんなに見えるとは思ってなかったでござるよ」

 ふと、目を輝かせた忍くんが私へ視線を移した。すると、彼に見入ってしまっていた私とばっちり目が合う。咄嗟に目を逸らして夜空を指さした。そして高鳴った心臓を誤魔化すように、どうでもいい話をする。

「……こいぬ座って知ってる? 冬の大三角のうちのひとつなんだけど。星座を繋いだ線がさ、全然こいぬじゃないんだよね」
「あはは、星座って結構無理のある繋ぎ方が多い気がするでござる」
「想像力がすごいよね。手裏剣の星座とかも作れそうじゃない?」
「確かに! あれなんか良さげでござるよ!」

忍くんは無邪気に笑いながら夜空の一角を指さす。指先を追って見るけれど、たくさん星が見えるなかで彼の指す星がどれなのかはわからない。

「あの一番光ってるのを真ん中にして……上下左右に線を引いて手裏剣の完成でござる!」
「手裏剣だと四角だから作りやすいね。どこにでも作れちゃうから、明日には場所忘れちゃうかも」
「うぅむ……でも今日作ったのはちゃんと覚えておくでござるよ」
「どうして?」

 空から目を離して忍くんのほうを見る。忍くんはちょっと照れながらも、ニコッと元気よく笑った。

「世界で拙者たちだけしか知らない星座と思うと、なんだか特別な感じがするでござる!」
「……ふふ、確かに。じゃあ私もちゃんと覚えとくね」

顔を上げ、彼が先ほど結んだ星座を見つめる。彼の見ている星と私の見ている星が同じかどうかは定かでないけれど、空に手裏剣の星座があるなんてきっと私たちしか知らないのだろう。

「なんだか特別な感じ」がするそれは、思っていたよりずっと私の胸を暖かく高鳴らせてくれた。