愛しいワンシーン
夕暮れチャイムの音を聴いて、なんとなくセピア色の懐かしさに髪を靡かせる。すると不意に、繋いでいた手が力強く握り直された。隣を歩く晃牙くんの顔を見れば、彼はキャップを深く被り直して眉を顰めた。
「おいなまえ、テメ〜、俺様を無視するなんざいいご身分じゃね〜か」
「えっ? あ、ごめんごめん、ボーッとしてた。どうしたの?」
軽く笑って首を傾げると、彼はちょっと口もとをモゾモゾさせたあと、一度長く息を吐き出した。そして春風に掻き消えそうな微妙な声で呟く。
「だから…………今日、メシ食ってけよ。俺ん家で」
「え……ぁ、え、と……でも」
「テメ〜が嫌なら断れ。そうじゃね〜なら来い」
迷惑じゃないの、とか、邪魔じゃないの、とか、そういう遠慮と心配を私が言葉にする前に、彼は釘を刺した。さく、さく、と土手沿いの道を歩きながら数秒考え込む。前方を歩くレオンが歩幅の狭くなった私を振り返った。
「あの……えと、その」
「……」
「じゃあ、お言葉に甘えて……お邪魔します」
ちらりと彼の顔を横目で覗き込むと、彼は思いのほか嬉しそうに無邪気な笑みを浮かべてこちらを見た。
「けっ、最初っからそう返せよな!」
「……うん、次からはそうする」
夕焼けの日差しが、彼の銀色の髪に反射してきらきら光って見える。それがあんまり綺麗に見えたものだから、私も素直に笑って見せた。
「よし、じゃあスーパーまで走っちまうか」
「えっ、ちょっと待って、私絶対置いてかれるじゃん」
「ははっ、精々転けんなよ!」
繋いでいた手が離れて、私の手首をがっしりと掴む。走り出した晃牙くんに合わせてレオンも駆け出した。私は晃牙くんに手を引かれながら、足がもつれそうになりながらも必死で走る。
風が身体を通り抜けていく。耳が風の切る音と私たちの足音だけでいっぱいになる。心臓がどんどん速くなる。走るのはそこまで好きじゃないけれど、時折少し振り向く彼の楽しそうな笑顔はたまらなく好きだ。
スーパーに着く頃にはふたりとも息を切らして疲れていたけれど、そういうバカみたいなワンシーンだって、彼と一緒なら全部額に入れて飾りたいくらい大切な一瞬になるのだ。それから多分、今日このあとのふたりきり――正確にはふたりと一匹きり――の夜だって。
「おいなまえ、テメ〜、俺様を無視するなんざいいご身分じゃね〜か」
「えっ? あ、ごめんごめん、ボーッとしてた。どうしたの?」
軽く笑って首を傾げると、彼はちょっと口もとをモゾモゾさせたあと、一度長く息を吐き出した。そして春風に掻き消えそうな微妙な声で呟く。
「だから…………今日、メシ食ってけよ。俺ん家で」
「え……ぁ、え、と……でも」
「テメ〜が嫌なら断れ。そうじゃね〜なら来い」
迷惑じゃないの、とか、邪魔じゃないの、とか、そういう遠慮と心配を私が言葉にする前に、彼は釘を刺した。さく、さく、と土手沿いの道を歩きながら数秒考え込む。前方を歩くレオンが歩幅の狭くなった私を振り返った。
「あの……えと、その」
「……」
「じゃあ、お言葉に甘えて……お邪魔します」
ちらりと彼の顔を横目で覗き込むと、彼は思いのほか嬉しそうに無邪気な笑みを浮かべてこちらを見た。
「けっ、最初っからそう返せよな!」
「……うん、次からはそうする」
夕焼けの日差しが、彼の銀色の髪に反射してきらきら光って見える。それがあんまり綺麗に見えたものだから、私も素直に笑って見せた。
「よし、じゃあスーパーまで走っちまうか」
「えっ、ちょっと待って、私絶対置いてかれるじゃん」
「ははっ、精々転けんなよ!」
繋いでいた手が離れて、私の手首をがっしりと掴む。走り出した晃牙くんに合わせてレオンも駆け出した。私は晃牙くんに手を引かれながら、足がもつれそうになりながらも必死で走る。
風が身体を通り抜けていく。耳が風の切る音と私たちの足音だけでいっぱいになる。心臓がどんどん速くなる。走るのはそこまで好きじゃないけれど、時折少し振り向く彼の楽しそうな笑顔はたまらなく好きだ。
スーパーに着く頃にはふたりとも息を切らして疲れていたけれど、そういうバカみたいなワンシーンだって、彼と一緒なら全部額に入れて飾りたいくらい大切な一瞬になるのだ。それから多分、今日このあとのふたりきり――正確にはふたりと一匹きり――の夜だって。