眠れない夜には
なかなか寝つけない夜、薄暗闇のなかでぼんやりと天井を見つめたり目を瞑ったりしていると、不意に寝室のドアが開いた。かすかに聞こえる息遣いと足音は紛れもなくなまえちゃんのものだったから、ぼくは黙って目を瞑り、眠ったふりをしていた。すると彼女がこそこそとぼくのベッドにもぐりこみ、すんと鼻をすすったので彼女のほうへ寝返りをうってその顔を覗き込んだ。
「こんな時間に黙ってベッドにもぐりこむなんて悪い子だね?」
「わ、……ごめんなさ、」
彼女の白い頬に手を添えると、ひた、と手のひらに濡れた感触がした。横髪を耳の後ろへ撫でつけて、逃げられないよう彼女の脚を自分の脚で絡めとる。
「怖い夢でも見た?」
「…………うん」
「どんな夢?」
ぼくが彼女を抱き寄せて頭のすぐそばで囁きかけると、彼女は無意識にか強ばらせていた身体の力を抜いた。
「ひ……、日和くんが死んじゃう夢……」
「ふぅん? それは悪い日和! でも大丈夫だね、ぼくはちゃんと生きてるからね。ほら、聞いて」
彼女の手を取って自分の胸に当てる。とく、とく、と穏やかに鳴り続ける心音を感じ取って、彼女はホッと息を吐いた。
「それにしても……ふふ、珍しいね? きみがこんなふうに甘えてくるなんて」
「ごめんね、こんな時間に」
「別に責めてないね。責めてないのに謝られるのは気分が悪いね!」
「あ、ごめ……いや、えっと…………でも、日和くんが起きてて、こうして声が聞けて嬉しいよ。ありがとね」
「うんうん、感謝ならいくらでもするといいね」
目の慣れた暗闇のなか、彼女はくすくすと笑った。その長いまつ毛はまだ少し濡れている。ぼくはベッドのふちで小さくなっている彼女を引き寄せ、その目元にキスを落とした。
「ひとはいつか死んじゃうけど、それは今じゃないね。きみもぼくも。まだまだやらなきゃいけないことがたくさんあるからね」
「やらなきゃいけないこと?」
「うんうん、きみをたくさん可愛がってあげることもそのうちのひとつだね。それからきみはもっともっとぼくに愛を伝えなきゃいけないからね。死んでる場合じゃないね!」
「……ふふ、うん、そうだよね。ありがと……大好きだよ」
「うんうんその調子だね! ああなんだか目が覚めてきちゃったねっ」
バッと掛け布団をひっくり返して、彼女の上に覆い被さる。彼女はちょっとびっくりしたような顔をしていたけれど、構わずキスをすると恐る恐るぼくの首に腕を回してくれた。
「もう怖い夢なんて見れないようにしてあげるね」
そう囁いて、おまじないをするように彼女の額にキスをした。彼女は糸がほどけたみたいに微笑んで、ぼくの顔を引き寄せ鼻先にキスをしてくれた。やっぱり寝室を一緒にしちゃおうかな、と頭の隅で考えつつ、その夜はふたりで朝までずっと起きていた。
「こんな時間に黙ってベッドにもぐりこむなんて悪い子だね?」
「わ、……ごめんなさ、」
彼女の白い頬に手を添えると、ひた、と手のひらに濡れた感触がした。横髪を耳の後ろへ撫でつけて、逃げられないよう彼女の脚を自分の脚で絡めとる。
「怖い夢でも見た?」
「…………うん」
「どんな夢?」
ぼくが彼女を抱き寄せて頭のすぐそばで囁きかけると、彼女は無意識にか強ばらせていた身体の力を抜いた。
「ひ……、日和くんが死んじゃう夢……」
「ふぅん? それは悪い日和! でも大丈夫だね、ぼくはちゃんと生きてるからね。ほら、聞いて」
彼女の手を取って自分の胸に当てる。とく、とく、と穏やかに鳴り続ける心音を感じ取って、彼女はホッと息を吐いた。
「それにしても……ふふ、珍しいね? きみがこんなふうに甘えてくるなんて」
「ごめんね、こんな時間に」
「別に責めてないね。責めてないのに謝られるのは気分が悪いね!」
「あ、ごめ……いや、えっと…………でも、日和くんが起きてて、こうして声が聞けて嬉しいよ。ありがとね」
「うんうん、感謝ならいくらでもするといいね」
目の慣れた暗闇のなか、彼女はくすくすと笑った。その長いまつ毛はまだ少し濡れている。ぼくはベッドのふちで小さくなっている彼女を引き寄せ、その目元にキスを落とした。
「ひとはいつか死んじゃうけど、それは今じゃないね。きみもぼくも。まだまだやらなきゃいけないことがたくさんあるからね」
「やらなきゃいけないこと?」
「うんうん、きみをたくさん可愛がってあげることもそのうちのひとつだね。それからきみはもっともっとぼくに愛を伝えなきゃいけないからね。死んでる場合じゃないね!」
「……ふふ、うん、そうだよね。ありがと……大好きだよ」
「うんうんその調子だね! ああなんだか目が覚めてきちゃったねっ」
バッと掛け布団をひっくり返して、彼女の上に覆い被さる。彼女はちょっとびっくりしたような顔をしていたけれど、構わずキスをすると恐る恐るぼくの首に腕を回してくれた。
「もう怖い夢なんて見れないようにしてあげるね」
そう囁いて、おまじないをするように彼女の額にキスをした。彼女は糸がほどけたみたいに微笑んで、ぼくの顔を引き寄せ鼻先にキスをしてくれた。やっぱり寝室を一緒にしちゃおうかな、と頭の隅で考えつつ、その夜はふたりで朝までずっと起きていた。