「なぎさくん〜……」
「うん、私はここにいるよ」

 ゆらゆらと頼りなげに宙をさまよう彼女の手を、ぎゅっと両手で包み込む。彼女の手はびっくりするほど熱くて、私は思わず不安になり寝そべったままの彼女の顔を覗き込んだ。

「冷却シート、変えようか」
「んん、あははっ、さっき貼ったとこだよ」
「そっか、ぬるくなったら言ってね」
「うん、ありがと」

ベッドで大人しく臥せっている彼女は、どうやら風邪をひいてしまったらしい。今日はデートの約束をしていたのだけれど、彼女からよくわからないメッセージが送られてきたので家に来てみると、彼女はフローリングの廊下に倒れ込んで眠っていたのだ。驚いて茨に色々聞きながらなんとか看病をして、今に至る。

「ええと……そうだ、何か食べる? 飲みものとか、何か欲しいものがあったら買ってくるよ」

汗で額にはりついた髪を指先でどけてやりながら、彼女に話しかける。彼女はぼうっとした目で私を見つめたあと、ふにゃりと笑った。

「凪砂くんがいい、」
「……? 私?」
「うん、凪砂くんに、ここにいてほしい。それでもし良かったら、ぎゅってしてほしいなぁ」
「……うん、わかった」

 彼女の頭を撫でて、そっとベッドのなかに潜り込む。潰してしまわないよう気をつけながら彼女の熱い身体をぎゅっと腕のなかに収めた。すると彼女は嬉しそうに笑って、私の胸もとに頭を擦り寄せてくれた。

「凪砂くんの手、つめたくて気持ちいい」
「本当? なら良かった。窮屈になったら言ってね」
「ならないよ、凪砂くんと離れたくなることなんてぜったいないもん」

いつもより朦朧とした声色で、彼女はぼそぼそとそう言った。華奢な手が私の背中に回される。捲れた寝間着の隙間から触れてしまった彼女の背中は、さっき触れた手よりも熱く感じた。その熱をなんとか冷ましてあげたくて、彼女の柔らかな素肌に手のひらを這わせる。

「ん……ぅ、凪砂く……」
「あ……ごめんね、冷たかった?」
「ううん、へいき」
「……身体、とっても熱いね。苦しくない?」
「凪砂くんが触っててくれたら、ぜんぜん苦しくないよ」

 彼女はそう言って顔を上げ、私にキスをした。彼女はもうどこに触れても熱くて、今にも溶けてなくなってしまいそうだった。溶けてしまわないよう、輪郭を確かめるように彼女の肌をなぞる。

「あ、っ凪砂くん、あのね」
「どうしたの?」
「私、わたし、凪砂くんにもっとちゃんと触ってほしいの、」
「ちゃんと……というのは、いつも夜にするみたいに?」

私が彼女の瞳を見つめると、彼女はゆらりと涙を滲ませて頷いた。

 彼女は風邪をひいて弱っているというのに、こんなときにセックスなんてしても大丈夫なのだろうか。彼女の体調も心配だし、強いて言うなら私にも菌がうつってしまうかもしれない。感染にかんしてはもう今さらかもしれないけれど……彼女の望みだからといって、無理をさせてしまうのは良くないことのような気がした。

「……ううん、駄目。そういうことをするのは、お互い元気なときにしよう。君を傷つけたくないんだ。……わかってくれる?」

彼女の頬に手を添えて静かにそう言い聞かせてみる。彼女は寂しそうな表情をしたけれど、それ以上わがままは言わずに小さく頷いてくれた。

「ありがとう。元気になったら、たくさんしようね。……愛しているよ」
「うん、私も……だいすき」

 彼女は珍しく甘えた声色でそう言って、私に抱きついてきた。その身体を改めてぎゅうっと抱き締め、つむじにキスをしてみる。重なった素肌の熱も絡めた脚の熱さも、早く治まってくれたらどんなにいいか。今はただ、彼女が寂しくならないよう傍にいることしかできない。……けれど元気になったら、そのときは彼女をたくさん満足させてあげよう。