「ただいまぁ……」
「ん、おかえり〜」

お風呂を終えてソファでごろごろしていると、ようやく仕事を終えた彼女がヘトヘトになりながら帰ってきた。迎えるつもりで彼女のほうへ目をやって、すぐに起き上がる。

「えっ、顔真っ青……。どうしたの、ほらここ座って」
「うん……」

 彼女はぼすんとソファに腰掛け、珍しく俺の肩に頭を預けてきた。よしよしと頭を撫でてやりながら、空いた手で彼女の冷たい手を握る。

「最近忙しそうだもんねぇ、それにしてもここまでするのはちょっと……どうなのって感じではあるけど」
「うん……うん、あ、まって……そうだ帰ったらアレやろうと思ってたの」
「は? なに、アレって」

突然立ち上がりかけた彼女の腰に腕を回して引き止める。俺が咎めるように顔を覗き込むと、彼女は考え込むように目を閉じた。

「なんだっけ? 何かしようとしてたんだけど……掃除? 洗濯?」
「……なるほどね〜、なまえがヤバいくらい休むのが下手だっていうのはよくわかったよ」

 大きく溜め息をつき、彼女のスーツのジャケットを脱がせる。スカートのホックも外してだらしなくシャツを出させ、もちろん上の方のボタンも外した。いまいち状況を理解していないなりに、彼女は少しだけホッと息をつく。

「今日はもうなんにもしちゃだめ。俺を見習ってゆったりのんびりすること、良い?」
「え……でも」
「でももだっても聞かない。大体、なまえが朝から晩まで働いてるせいで俺がどれだけ寂しい思いしてると思ってるの? ね、ちょっとでも申し訳ないと思うんなら、今日くらい俺に付き合ってよ」
「ん〜、うん……そうだね、ごめん」
「よろしい」

犬を褒めるように彼女の頭を撫でてから、ソファに座りなおし、ポンポンと自分の膝を叩いた。

「じゃあほら、横になって頭乗せて」
「えっ、良いの? 私がするんじゃなくて?」
「なぁに、俺の言うこと聞けないの?」
「いや、聞きます、聞くけど……。じゃあ、お邪魔します……」

 彼女ははじめ、ぎこちなく遠慮がちに俺のひざへ頭を預けてきた。けれど一度落ち着くと、すぐに目を閉じてそのまますやすや眠りに落ちてしまった。そばに置いてあったブランケットを手繰り寄せ、彼女の肩にかける。優しく髪を撫でながら、穏やかな寝顔を見てちょっと溜め息をこぼした。

「いい加減、俺が理由作んなくても甘えてよ……ほんと、下手くそ」

彼女はもうなんにも言わず、ただ規則的な寝息が聞こえてくるだけだった。甘やかしてって、俺が彼女に言うのと同じくらいの頻度で言ってくれたって良いのに。いつになったらそれが伝わるのかは、今はまだわからない。