※暴力表現あり
※猟奇的な描写あり







 白い肌を暴くとき、なんとも言い難い背徳感に胸を焦がされる。柔らかな肉に冷たい刃先を滑らせれば、つう、と真赤な血が溢れてくる。このまま奥まで開いてしまえば、きっと彼女は死んでしまう。

「……ひ、…より……さん」
「痛い?」

 彼女の目尻から零れた光を指先で掬う。そのまま彼女の頬に手を当てると、じっとりと濡れた汗が手のひらに吸い付いた。

「平気……」
「そう? ……ドキドキしてるね、怖い? それとも……」

期待してるの、と耳元に囁き、そのまま耳たぶに歯を立てる。かぷりと強く噛み付いたあと舌を這わせると、あまい血の味が口に広がった。

 彼女の肌蹴た胸に手を当てると、汗ばんだ胸がトクトクと早鐘を打つように上下しているのが伝わってくる。ああ、生きている。彼女は確かに息をしている。

 熱っぽい視線と目が合った。

「きみの綺麗なお腹を割って、そうして、きみの一番大切なところに触れたいね」
「……だめ、死んじゃうから」
「うんうん、殺したいわけじゃないね。ただきみのこと、全部全部知りたいだけ。……痛いのを我慢する顔も、笑った顔も、気持ち良さそうな顔も、辛そうな顔も全部」

愛しているから、全部見せてほしい。これがおおよそ一般の愛情ではないなんてことは重々承知している。けれど、彼女はちっとも僕を拒まないのだ。

 熱を孕んで、どこか期待したような瞳で、彼女はじっと僕を見据える。彼女の瞳に映る僕はいつもけもののようで、まるで僕ではないみたいだった。それでいて、ありのままの僕自身のような気さえした。

 「全部、見せるから……全部愛して、血の一滴も残さないで」
「……ずるい。どうして……どうしてそんなふうに言えるの? 僕、きっときみに酷いことをしてるのに」

目頭がじわりと熱くなる。傷付けたいわけじゃない、なんて今更な綺麗事さえ、未だに僕の心の一部なのだ。それなのに、傷付いているはずのきみがそんなふうに幸せそうに笑うなんて。

 僕はこんなにも欲に溺れてきみを欲しているのに、きみはまるでどこまでも優しい天使みたいだ。僕だけが汚くて、綺麗なきみを汚してしまう。

「泣かないで……どうしてなんて、今更でしょ。私、日和さんに全部を暴かれてしまいたい。そうして全部を知った貴方に、愛してるって言ってほしい」

 彼女の手が、微かに震えながら僕の頬に触れる。親指のはらがそっと僕の涙を拭った。

「大好き、愛してる。……貴方が好き。だから貴方に愛されたいって思うの」

静かな声に、ハッとした。涙をこぼさないように細めていた目を見開くと、ぽた、と僕の涙が彼女の頬を濡らした。

 「……僕のこと、好き?」
「うん。……死んじゃいそうなくらい、好き。貴方が欲しくて欲しくてたまらない」

そっか、と口にすると、なんだか突っかかりがすっかり消えてなくなってしまった。

 彼女の瞳にけものが映っている。 僕の瞳には、きっと、食べられることを待ち望んだえものが映っているのだ。ならば、僕らを阻むものなど何ひとつとしてあるはずがない。

「僕も、殺しちゃいたいくらい、きみのこと愛してるね」

理性など捨てて、けものはけものらしく、最大限の愛を持ってえものを貪ろう。それが自然なことなのだ。誰がなんと言おうと、少なくとも僕と彼女の間では、そうすることが幸福なのだから。